小説 | ナノ


背中にゼッケンを貼られた。1等と書かれたゼッケン。小さい頃親に見世物小屋に売られて人に変な目で見られるのは慣れてた。でもゼッケンを貼られたのは初めてで何をされるのか分からなくて怖くなった。見世物小屋のおじさんはそんなわたしを無視して着々と準備を進めていった。これはなんですか、と喉まで出かけた言葉を飲み込んでもうどうでもいいやとさえ思った。

それから数時間放置された後に外に引っ張り出された。長時間の正座にも慣れたせいか苦に感じたりはしない。ただ一つ文句をつけるとしたら触らないで欲しい。この人とは10年は一緒に居ると思う。でもこの人に触れられるのだけはどうしても慣れないし慣れたくもない。早く死んでしまえばいいのに。いつも通り正座で待機していたら今度は紐をつけられた。それからおじさんがおもむろに口を開いた。

「今日は毎年度お馴染みのお祭りで屋台を開くんじゃ。お前はその商品だ」

そう言われてやっと今わたしがどんな状況にいるのか分かった。わたしはまた売られるんだ。

「この紐を引いてな、お前の紐に繋がったらお前とはさよならじゃ。若い女は売れるぞ〜」

そう言っておじさんはいやらしくニヤニヤと笑った。それがどうしようもなく気持ち悪くて思わず睨みつけた。けど幸いおじさんは気付かなかった。

「お、始まる時間じゃな」

おじさんのその言葉通り人がチラチラと見え始めた。若い男性や女性は素通りするが中年のオヤジは興味深そうに歩く速度を緩めてじっくりと見つめてくる。わたしはいつも通りただ遠くを見つめて。どうせなら若くてかっこいい人に引かれたいなあなんて無理な事を考えながらただただ前をみた。

それからは何名かが多額の大金を当たるかも分からないわたしに賭けて紐を引いては泣いて帰っていった。ただの紙クズの様なものが当たった人もいた。私を引く人はなかなか居なくてそろそろお祭りが閉じるというときに、ひとりの若い男の人が近寄ってきた。若いのに珍しいなあ。

「おじさん、この紐全部引くよ」
「ぜ、全部!?ご冗談を、」

おじさんが焦り出したのを見ながら若いお兄さんは笑顔を絶やさず紐全てに手を掛けた。それなのにわたしは当たらなかった。ああそうか、道理で引かれない訳だ。これはただのインチキ商売じゃないか。

「あれ?全部引いた筈なんだけどなあ」

お兄さんはニコニコと笑顔でおじさんを見つめた。おじさんは焦りと恐怖からか汗が湧く様に出ていた。

「おじさん、最終確認はしっかりしなきゃ。」
「あ、ああそうだなぁ!つい忘れとったわ!」
「まあいいや。とりあえずこの子連れてくネ」

お兄さんがわたしに近寄ってきて腕を引っ張った。暫く立ってなかったから少しフラッとしたが数秒後にはお兄さんに抱えられていたため歩く必要はなくなった。


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