小説 | ナノ


「落ちる気か」
「うん」

はるが死にたがってるのはずっとずっと前から。小さい頃に家族に見捨てられて、それから何度もリストカットを繰り返してた。どうせ死ぬ勇気なんか無いくせに。リストカットの傷だって浅いし。だから今回もどうせ落ちずに戻ってくるんだろう。

「あたしね、十四郎だけが居ればいいって、十四郎が死ぬまでは死なないって、思ってたの」
「は?」
「でもやっぱりめんどくさくなっちゃって」

こっちには目もくれず淡々と話すはるの話を耳に入れながらライターをポケットから漁り出した。

「家に帰っても学校に居てもあたしは嫌われ者でしょ?」
「そりゃお前のせいじゃねえだろ」
「まあ、それもそうなのかもしれないけどねー」
「何が言いたいんだ」

言葉を濁して言うはるに痺れを切らしてそう聞けばはるは笑顔を引っ込めて眉を下げた。

「…もし、さ、あたしが生まれ変わったら愛されるのかなって。人間じゃなくてもいい。犬でも、猫でも何でもいいから生まれ変わって愛されたい」
「は、お前何、言って、」

いつもとは違ってなかなかベランダから戻って来ないはるにドクリと心臓が鳴った。まさか、そんな、だって今までそう言って生きてきたじゃねえか。

「十四郎、あたしもう現界なのかもしれない」
「とりあえず戻って来いはる。危ねえだろ、そこ」
「あたしだって愛されたいんだよ」
「はる、はやく…っ」

近寄って腕を掴もうとするもはるはそれを避けるために後ろに下がるから、近寄るに近寄れない。落ちるから、頼むからそれ以上、後ろに寄らないでくれ。

「十四郎」
「戻って来い、って!」
「人はね、愛がなきゃ生きていけないんだよ」

そう言ったはるは泣きながら笑ってベランダの策に手をかけた。それから足をかけて、ちょっとだけ振り向いた。落ちるだとかもうそんなの関係無くはるの腕を捕まえようと駆けた。そしたらはるの姿が消えかけた。

「っ、バカか!」

ギリギリのところで腕を取ったがはるは俺の手を握り返そうとなんてしない。頼むから握ってくれ。お前が死んだら俺の気持ちはどうなるんだ。

「愛してる、愛してるから、はる…!」
「もっと早く、聞きたかった」

開いてる方の手で俺の指を一本ずつ離していくはる。心臓が鳴りやまない。ほんとに、悪い冗談ならやめてくれ。

「さよなら、十四郎」



来世で会おうね
(そしたらまた愛してるって言って)


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