小説 | ナノ


初めての任務を受けた。

春雨第七師団として、人を殺さなくてはならない。夜兎なんだから大丈夫。なにも心配ない。

と、何も意味のない気休めにしかならない言葉を並べて心を落ち着かせる。

殺しなんかしたくない。その本音を夜兎を理由にして隠す。


だけどそんなの無理だったんだ。本音は隠せない。

願いは通じない。世界は難しくて、残酷で、それで、優しい。


血が雨のように降る。周りには人、人、人、だけど皆死んでる。


あたしには、耐えきれない。


「あ、あたしが、殺した、」

「っはる!」


団長が駆け寄ってくる。


「だんちょ、あた、あたし、」

「はる、大丈夫、大丈夫だから、」


泣き喚くあたしを優しく抱きしめる団長。

あたしはただ、されるがまま。抱きしめ返す事もせず、嫌がりもせず、ただただ泣くだけだった。

だけど団長の服が濡れてしまう事に気づいて急いで離れた。


「す、すみま、せん」


しかし団長から離れるとなんだか落ち着かなくて嫌な予感がする。

さっきまで起きていた戦い、終わったはず。終わった“はず”だったんだ。人間が、まだ残ってた。

となると必然的に散らばる血、倒れて行く人。


「や、いや、もう殺したくないよ、」


傘を地面に落としてほう然としていたら、目の前が真っ暗になった。

誰かが、団長が、あたしの目元に手を添えて前を見えなくした。

目隠しされた状態のあたしはもちろん前は見えない。でも目隠しするその温かい手があまりにも優しいのは分かった。


団長はいつだって厳しい。いつも“人間に同情なんかしたらダメ”そう言ってた。でもそれも優しさなんだって気付いた。

同情してしまったらこんなにも辛い。

辛い思いをさせまいと言ってくれたんだ。団長は、誰より優しくて誰よりも強いから、辛さも何もかも知ってるんだ。


「はるのせいじゃないから。はるは何も、悪くない」



だから泣かないで、そう言う団長の声があまりにも優しい。


そんな彼のためなら強くなれる気がした。



残酷で優しい彼
(やっぱりはるにはまだ早過ぎたんだ)


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