さあ、幕を開けよう。
それがどんな結末なのか、知りもしないまま。



《01》



ああ、臭え。
臭う。臭う。臭う臭う臭う
またあいつがこの街に来ているようだ。
どうせろくな理由じゃない。
そして、あいつがいるっていうだけで俺のイライラはMaxだ。
ゴミ掃除にいかねえと。



今日も今日とて、自動販売機が空を飛んでいる。
見慣れた光景だけど、今日は特に嫌な空気を感じるのは、何故だろうか。
そんな俺の雰囲気を察したのか、杏里が気遣いの眼差しを向けてくる。
ああ、ここは男としてびしっと彼女を安心させないと!
いつもの口軽な言葉を言いながら、どうにも拭いきれない不穏な空気を、肌に感じた。



もう、ほんとシズちゃん爆発すればいいのに。
そう思いながら、俺は裏路地を歩いていた。
もう撒いた。これで一安心だ。
とりあえず、目下の目的はシズちゃんを消すこと。
そう―――上手く殺せないのなら、再起不能にしてしまえばいい。
天敵を貶めるための駒。キミはどこにいるのかなあ?



ぼうっと、夕暮れ時の公園で空を見上げた。
都会にしては珍しいほどの広さを持っているのに遊具は殆どないこの公園で、空は朱と橙と群青と紫藍に彩られている。
この光景が好きで、私はよくここへ来ていた。
少し戻れば高層ビルの立ち並ぶ町並みに比べてみれば、ここは異常なほどに空が広く見える。ぽっかりと、穴が開いたような、そんな場所。

黄昏が彩る虹色に向けて、携帯のカメラを向けてみたけれどすぐに戻す。
カメラ越しでは、いつも劣化する。
この虹色の空を綺麗に残すには、高性能なカメラしかないらしい。
私はそんな機材がないので、角膜というカメラに頼るしかないようだ。

ぼうっと、空を見上げていたら声をかけられる。


「こんばんは。撮れた?」


振り向くと、黒いファーコートを着た男性が立っている。
愛想笑いのような綺麗な笑顔。先程の動作を見ていたらしい質問を投げ掛けてきたのはどうやらこの人。
私は、その問いに「いいえ」と返した。

それから彼は私の隣に座り、少しの間他愛のない話をする。
私は、暮れていく空と彼の黒が混じっていくのをぼうっと見ていた。



―――彼は、折原臨也と名乗った。