例えば今日が俺の命日だとして。
キミはきっと、今日という日に思いを馳せることはないだろう。

例えば、その日に偶然キミの弟が死んだとして。
俺は、キミに想いを馳せてもらえるのだろうか。





MERCEDE amor






無駄な問答だと、我が仮定ながら笑うしかない。
縁石の上を歩きながら、愚かしい考えを嘲笑う。

俺が嫌われたのは必然であり、避けようのないものだ。
しかし俺が彼を好いたのもある意味必然であり、どうしようもない。

恋愛感情なんて、一過性で高揚錯覚であると思っていた。
べつに、恋愛感情を否定しているわけではない。
俺をそこまで盲目的にする存在に出会ったことがなかった。
俺が落ちればそれは恋愛感情だと肯定する程度には意識はあったのだ。


(ヒトの想いはいつだって一方的だ)


逆恨み。嫉妬。独占欲。悲哀。
愛情も例外なくそれのひとつで、お門違いな愛情に振り回されている人間も何度か見たことがある。
けれど、俺の今の立ち位置のようなものはなかった。
参考になどなるはずもない。

愛は見返りを求めないもの、なんてキレイゴトな言葉がある。
違うね、愛は一方通行だ。
返ってくるものではない、お互い勝手に送って満足するものだ。


(………そうかな)


今まではそう、確かに思っていたけど。
じゃあ、何故今の自分はこんなことを考えているのだろうか。

見返りがほしいのか?
拒絶されていることに傷付いているのか?
思い通りになってほしいのか?

ああ、どれも身勝手で滑稽だ。
ねえ、キミもそう思うだろう。


「臨也、手前また性懲りもなく……!」
「あはは、最初から血管浮かばせてるとか大丈夫?健康診断してきたらどうなの」


ねえ、キミもそう思うだろう。
見返りは返ってこない。
拒絶は必ずされる。
キミは俺の思う通りに踊らない。

なのに、こうしてキミに会いに来る俺を、俺は止められない。
会わないといけない、まるで麻薬中毒者だ。

麻薬みたいに、俺はいつか自分の麻薬―――感情に、自身を滅ぼされるだろう。
キミのその眼差しを我慢できるほど、俺は頑丈に出来ていないのだから。

…さぁ、今日はどこまで行けるかな。
殺意の追いかけっこの開始に、身を翻す。



――俺の想いが彼に伝わらないのもまた、必然だった。
だから、彼は俺が死んでもざまあみろだろう。

ほんのすこし。
たった数瞬でいいから俺を思い浮かべて。
その感情が憎しみではなく思い出になれたなら。
なんて、やっぱり愚かで滑稽だろうか。

望んでいることは、自殺志願者となんら変わらないのだから。





(2011.06.25)