誓いましょう、ワタシはアナタを…―――





誓詞
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A Lei chi dovrebbe proteggere






ねえ、ザクス。


彼が、呟いた。
ステンドグラスから月光が射すだけの夜の教会に、その声は透き通って響く。

その主に視線をやれば、あちらはワタシに視線を向けず
月光に照らされた神像に向いていた。


もし、神さまが罪をリセットしてくれるのなら
あなたはそれを望む?


金糸を揺らし、ワタシの方へ振り返る。
光を浴びない位置にいるにも関わらず、彼は儚く輝いて見えた。

いつもの雰囲気と違うのは、きっと
ここが教会だから…だけではないだろう。
彼の問いは、彼にも向いている。

ワタシは、彼の視線を逸らさずに答えた。


…イイエ。


そう、と小声で返した彼は、切なげな表情をして俯いた。彼の抱える重苦は、それほどにも彼を悩ませるのだろう。
けれど、ワタシはアナタの答えなど持っていない。

持ち得ないのだから。


…ワタシはね、ヴィンセント


言葉を繋げば、彼は不思議そうに首を傾げた。


アナタに会えて、嬉しいんですヨ


その言葉に、数秒ほどきょとんとする。
しかし彼はすぐに苦々しげに笑んだ。

ああ、違うんだ。
アナタに会うためになら罪を犯せると、言っているわけじゃない。

一歩、彼に歩み寄って続ける。


…たとえリセットしたいくらいの絶望に直面しても
ワタシはアナタを見捨てない


え、と小さく発した彼に、笑顔を向けて。
また一歩、歩み寄って続ける。


ワタシは、泣いているアナタがいる世界を見捨てたりしない


言えば、意味がわかったのだろう彼は無言になった。

罪も、公爵家という縁もすべてアナタに巡り逢うためのものなら
消す必要など、ないのだ。

騎士としてでなく、
ワタシはアナタを護りたい

アナタを護りたいから、懺悔などいらない。


…誓いましょう 


彼の前にたどり着き、呆然としている彼の左手を手にとる。
片膝を床につけ身を低くし、手の甲に口付けた。


ワタシはアナタを見捨てない
いつだって傍にいる


なによりも大切な、
アナタの笑顔のために。





(この世が終わるとしても)
(ワタシはそこにいるでショウ)
(絶望の中にアナタを置いてなど、いきはしないから)

2010.03.02





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