「う〜ん…」


現在放課後。
部活やらなんやらで賑わう校庭をてくてくと歩いてゆくスタンの姿があった。

表情は微妙に考え事してます風。





【それいけ和風喫茶】





「ん〜」


その後校門に着いたスタンは、門に寄りかかってまだ考え事をしていた。
いつも頭を使わないからか、何時間もそのまま悩んでいそうな彼。


「あれ。スタンさん何やってんの?」
「うん?
…あ、ルーク。そっちこそ何やってんの?」
「俺はここらでアッシュを待つ予定なんですけど」(アッシュが生徒会をサボるから)
「ふうん。まあ俺もディムロス待ちなんだけどね」


2人揃って(恋)人待ちか〜なんて談笑しあう。


「で、話戻しますけど何考えてたんですか?」
「ん?」


ルークはスタンに改めて問いかける。するとスタンは呆けた表情で一言。


「…なんだっけ」


こいつは天性のボケである。


「忘れたんですか…」
「ご、ごめん」


鼻の頭をかきかき謝るスタン。なんだったかを一生懸命思い出そうとするが、なかなか思い出せない。


「まぁ忘れたならいいです」
「わ、悪いね」


あはは、と苦笑いして、新しい話題がないかと辺りを見回す。

しかしもうそんな余裕もなさそうだ。


「あ」
「ルーク!」


ロニと対立できそうな速さでルークのもとへと走ってくるアッシュの姿が見えた(過去形)のだ。

ルークは「お?早いな」と、ワンテンポズレた反応を示している。


「じゃあスタン先輩、また」
「ああ。気をつけてな!」


はい、と微笑むルークと、何故かいつも以上に眉間の皺の濃いアッシュを見送り、スタンは再び頭を悩ませる。

それはさっきまでのことを再び考えているのではなく、忘れたものが何かを思い出すためだ。


「ん〜…」


時間と声がのんびりと過ぎ去ってゆく。

思い出せない。


…そんな感じでいつまで悩んでいたのかわからないくらい経ち、思い出せないままディムロスと合流する。


「あ。遅いぞディムロスー」
「す、すまん…(畜生あの変態親父系ねっとり嫌味系のせいで…)」


ブーブーと可愛らしく怒るスタンを待たせてしまったのを悪く思いながら、自分を引き止めくさったウッドロウに悪態をつく。

しかしそんな時間さえも惜しいのか、スタンはディムロスを急かす。


「なあ、バイトに遅れちまう」
「あ、あぁ。すぐ車を出す」





in車。


「で、決まったのかスタン」
「何が?」
「何がってお前…店の新メニューだろ」
「あぁ!それだ」


ぽん、と手を叩くスタン。ルークに教えようとしてすっかり忘れてしまっていたのは新メニューの案だ。

ディムロスはそんなスタンを不思議そうに(横目で)見やり、話を続ける。


「…思いつかなかったのか?」
「いや、一応考えてはおいたんだぞ!」
「ほう?なんだ?」


スタンの自信満々な声に、ディムロスは何かいい案が浮かんだのかと問う。

するとスタンはニッ、と笑い、


「寿司!」


と一言。
ディムロスはその答えに激しく前へ傾く。

危うくアクセルを全開にするところだった。(それ以前に前見ないのは危険です)


「…スタン、あそこは喫茶店であって寿司屋では…」
「寿司屋に寿司提案してどうすんだよ」
「いや、そうじゃなくて。もう少しこう…スパゲティとか」


一応スパゲティはメニューにあるので却下である。


「えー?じゃあ、俺の好きな麻婆カ「それもどうなんだ」


スタンの言葉を遮断して止める。


「何がいけないんだよー!」
「中華料理店にする気か!」
「カレーは中華じゃないだろ!?大体ピラフがある喫茶店あるし!!」


スタン、喫茶店は軽食処です。


「…ま、まぁ一応店長には申請しておく…」
「うん!」





後日。

休日の朝、エルロン家の扉を叩くディムロスの姿があった。

リリスが扉を開ける。


「はい。
…あら、ディムロスさん」
「朝早くからすまない。スタンは居るかな?」
「えぇ、居ますよ。少し待って頂けるかしら」
「ああ」


とたとたと小走りに走るリリスの足音と、飛び去る小鳥の羽音が聞こえる。

…のどかだ。
なのに

スタンの部屋から響く、パトカーのサイレンよりうるさい、フライパンの音が鳴り響く。これは近所からどんな目で見られているのか少し気になるところだ。

十数分後、ぼさぼさの頭を掻きながらスタンが二階から降りてきた。


「何ディムロス…こんな朝早くから…」
「…お前の普段の起床は何時なんだ?」
「…いつだろ」


ははは、と微妙な疑問を笑って流したスタン。
現在時刻は九時である。(リリス何してたんだ)


「…で、なに?」
「あぁ、お前の奇想天外な意見が取り入れられてな」
「……マジ?」


嬉しそうにディムロスを見るスタン。目はまさに星を散りばめたような輝きを放っている。
さながら恒星のように(何)


「…だから、それについて話をするので迎えにきたわけだ」
「うっわぁvv頑張って考えた甲斐があった!!」


ひゃっほう♪とはしゃぐスタン。
(フライパンをしまってきた)リリスが、不思議そうに我が兄を見ている。


「お兄ちゃん…何考えたんですか?」


こちらへ歩みよりながら訊いてくるリリス。
右手にはしっかりと櫛が握られている。兄の髪をとくのは妹の仕事か。(それにしてはぼさぼさだ)


「…………それは……」


無い脳を振り絞って考えたのだから言うべきなのか。

しかし発想が発想すぎて言うのも気が引ける。

そんなディムロスをよそにスタンは無駄に元気よくリリスに言い、リリス唖然。


「………」


ディムロスは頭を抱える。この意見を取り入れた店長も奇抜だが、どこまでも正直者なスタンもある意味奇抜。

正直者は馬鹿という定理がぴったりだと思った瞬間だった。



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あとがき