きょうは、ごしゅじんさましあわせそうですの!
なんでってきかれると………





手料理





「くだらねえ」


ああ実にくだらない。
晩飯の話をしているのだが、ルークが俺の料理を食べたいと懇願しているのだ。
今日の当番はジェイド。俺が作ろうが眼鏡野郎が作ろうが変わりはしない。

…まあ、実際は俺の口が悪いだけだったりもするんだが…(要するに照れ隠し)


「いいじゃん!俺、アッシュの料理食ったことない!」
「だからなんだってんだ、屑が」
「く、屑言うな!」


ルークの目尻に涙が溜まる。言い過ぎたかと少し後悔するが、もう遅い。
しゅんとした表情で下を向いているルークを宥めるガイと、後ろでなんとか説得しようと懸命に努力するナタリア。なんだか段々と罪悪感に苛まれていく。

…しかし言うタイミングがわからない。俺は黙っていた。


「はいはい、照れ隠しとは若いですねー。さ、私が作りますから食べましょうか」


ははは、と笑って話を流していくジェイド。しかも図星なあたりとても痛いところだ。俺はそれがなんだか気に障って、奴を睨んだ。





「…………」
「おや。食べないのですか?アッシュ」
「嫌がらせかテメエ」
「はて、なんのことでしょう」



晩御飯が出来たというので来てみたのだが…これはなんだ。
目の前に並ぶ食べ物の品々。それはできたてで…まあ美味しそうなのだが。


「………」


何故だか俺の皿には存在を主張するかのようにタコがどどんとのっている。タコが。

…元々ある存在感もおざなりになることなく。無駄にオーラを撒き散らして。


「………」


確信犯だ。俺は迷わずむしろ迷う理由も見いだせずタコを睨みつけた。

同じ赤でもこいつは嫌だ。生理的に受け付けない。酢物なら食べられなくもないが無理だ。
むしろ同じ赤なのに嫌気がさす。

食べる気も失せ、苛々しながら踵を返す。


「どこに行くんですか?」
「いらん。寝る」
「ひどいですねぇ…ない食材絞って頑張って作ったのに。
食材が悲しみますよ」


白々しくそういう眼鏡野郎を背に、俺はさっさとその場を離れる。
ナタリアやルークの声が聞こえた気もするが、振り向きはしなかった。





―――コンコン


「誰だ」
「あ、アッシュ?俺だけど…」
「…なんの用だ」


扉も開けず、戸の向こうに居るルークに問い掛ける。
それに気圧されたのか、少しおどおどしながら応える声。


「あ、あの…入って、いい?」
「……別に構わない」
「う、うん。お邪魔します」


キィ、と扉の開く音がし、扉から控えめにこちらを伺うルークの姿。
入らないのか、と問えば、おずおずと入ってくる。


「アッシュ、何も食べないと元気出ないから…これ」
「………?」


ずい、と俺の前に突き出された、銀紙に包まれたものを手に取る。
その次の瞬間ルークが逃走を図ったようだが服をむんずと掴んで阻止する。


「なんだこれは」
「えと…えびマヨおにぎり」


食材が無かったので最近使ってないおにぎり系を作ったらしい。…その前に、こいつはおにぎり以外作れるのだろうか。
そう思いつつ、せっかく作ってくれたならと握り飯を口に運ぶ。

…まあ不味くはないが上手くもない。(照れ隠し)ふ、と銀紙の上にまた銀紙があるのに気付き、開けてみる。
中身は…


「…卵焼き?」
「う、うん。
栄養が偏ったらいけないと…思って」
だめだったかな、と気弱に聞いてくるレプリカ。


「…ダメなんかじゃ、ねえよ」


頑張って作ってくれたんだろ、と言いかけて言葉を飲む。…素直じゃないな、俺も。

少し顔が熱い。照れてるなんて認めたくなくてそっぽ向く。

ルークは嬉しそうな顔をして、顔を向けた方の隣側に腰掛けた。


「アッシュ、おいしい?」
「卵焼きは不味い」
「…うん」


今度は頑張るな、と言って抱きついてくるルーク。俺はそのままルークを抱き込んだ。





外野。

「やー、二人きりにならないと素直にならないなんて、アッシュは照れ屋さんですねえ」
「てれやさんってなんですの?ジェイドさん」
「好きな人に素直になれない人のことですよ、ミュウ」
「そうなんですの?」



なんでってきかれると、



ごしゅじんさま、だいすきなアッシュさんといっしょだからですの♪





---
あとがき