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そよ風がふわりとカーテンを揺らした、この時間。

時刻にすれば、丁度正午の昼時だった。

「次は?」
「いらないと言って…」
「次は?」

仲睦まじくも昼食を一緒にとる二人の距離は、小さめのテーブル一つ分。
ルークはにっこりと笑って、テーブルの上にずらりと並ぶ料理の一つ一つをスプーンにとり、アッシュの口元へと運んだ。

「ほら、美味しいから」
「……」

アッシュは眉間の皺を隠せないまま、差し出されたスプーンと料理を口にした。
さっきから繰り返されているこの行為。すればする程、ルークは笑みを浮かべた。

それはそれは嬉しそうに。

「美味しい?」
「………」

少し照れくさそうに聞いてきたルークの頬は赤く染まっていて、なんとなくアッシュは悟った。

極力噛まないようにして飲み込んだ、この料理を作った人物は。

(………全く上達してないんだな…)

ルークに聞こえない程度の溜息を出して、考える。
素直に不味いと言って上達を促すか(機嫌は損ねるだろうが)、今の笑顔を保たせる為に嘘でも美味しいと言うか。
ぐるりと頭の中を何回も回って、アッシュはコップに注がれた水分を口にした。

「…やっぱり不味かったんだ…」

左手に持っていたスプーンをテーブルに置いて、ルークは ごめん と謝った。
しゅんとしたのがはっきりとわかる事に、アッシュは罪悪感を覚えた。

「俺、もっともっと上達するように頑張るからさ!」
「……無理する必要はねぇ」
「へ?」

一度咳払いをしてアッシュはルークの頭を優しく撫でた。
くすぐったそうにかかる前髪を、少し横に分けてやった。

「料理くらい俺が作ってやる、だからお前はいつもみたいに笑ってればいい」
「で、でも…」

俺だって、少しは喜んでもらいたいのに。
ルークは口を尖らせた。



まただ。
全くわかってない。

慣れない事の所為で、怪我をしてるのも知らないわけがない。


俺は。
ただそこに居れば、居てくれさえすれば それでいいのに。


「指、ちゃんと消毒したのか?」
「え、あ……まだ」
「全く…」

料理の際に包丁で切った指の傷は、もう血が固まっていたがそんな事も構わず、アッシュは指を舌で舐め挙げた。

「あっ、アッシュ…っ」
「黙ってろ。消毒だ」
「う、うん…」

抑えようとしても早くなる一方の心臓を、ルークは必死で落ち着かせようとした。

ほんの少し触れられただけで、こんなにも早く打つ心臓。


でも、甘やかされてばかりの自分は嫌だから。
だから。

(アッシュに喜んでほしかっただけなのに…)



心地の良いこの居場所に、甘えてしまいそうだ。



「てめぇは居るだけでいいんだよ、俺の傍に。それだけで十分だ」
「でも、俺はやだ…」
「焦る事ねぇんだよ、まだガキなんだ」
「が、ガキって言うなよなっ!!」

勢いよく立ち上がったルークにアッシュは近付いて、ぎゅっと抱き締めた。


「まだ甘えてろ、屑が」


伝わった体温に、ルークはホッとしながら腕を回す。

まだ。
まだ。
子供でいたくないけど、いてもいいんだ。


「慣れない事して怪我されたんじゃ、俺が持たないからな」
「アッシュ……」



にこりと微笑むと、返してくれた。



俺の好きな。
大好きな居場所。





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感想