ひとりの僕は、からっぽだった。




気付けばきみがそこにいる
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Noi siamo due persone






こつん。
足元のチムチムの檻を蹴る。

操舵主としてエリアに組み込まれ、プレイヤーが檻の鍵を開けるまでただ待機するNPC。

それは、僕を見上げたまま。
何もせず、そこにいる。


「僕も」

「お前みたいに、待つだけのデータだったらよかったのに」


ラッキーアニマルや蹴られるだけのチムチムも役目以外は何も持っていない。

僕のように、忌み嫌われることもないのだろう。


「僕は、からっぽだ」


自嘲めいた笑みを、俯いた顔に浮かべる。
僕はただ、生まれてきただけ
でも、僕のまわりには誰もいなかった。

僕をみてくれるのは、誰一人として。

バランスのためだけに、僕は苦しめばいいのだろうか。
バカみたいに、壊して壊して壊して。

壊しても、無くなりはしないのに。


「………」


ぼんやりする。
苦しみから逃れようと、思考がフリーズしている。

チムチムが、相変わらず丸い目を僕に向けていた。


「あ、クビアー!!」


どこからともなく、高い声が響いてきた。
視線をやれば、そこには橙の髪の彼。

フリーズしている思考をなんとか起こし、返す。


「………。
やあ、オマケ」


俺はオマケじゃないと腹をたてる彼に笑みを向け、何か用と問う。
彼はまだ不満があるようだったけど、僕の話題に合わせた。


「カオスゲートのあたりで見掛けたんだ」
「…で?」
「?追いかけてきたんだよ」


お前進むの早過ぎて、追いつくの全力疾走だったんだからなー!なんてまたブーイング。
僕は呆気にとられて、言葉は右から左。


「……それだけ?」
「それだけ。
あ、よかったら一緒にエリア回ろうぜ!」


そう言い、彼は僕に明るい笑顔を向けた。
僕には浮かべることが出来ないだろうその笑顔は、
確証もない確信で僕の心に染み入ってくる。
やさしくされることは、苦手だけど
彼は無意識に、触れないやさしさを僕に向ける。

からっぽの僕を、
少しだけ満たしてくれるような…


「……いいよ」
「よっしゃ!!
じゃあ行こうぜっ!」


まずは青い鍵だな、と言って先導する彼についていく。

見上げるチムチムを檻から出すのは、少し後の話…





(てゆーか、あんなとこで何してたんだ?)
(……トキオが来たから忘れちゃったよ)
(Σえ、俺?!)

2010.03.23