「起きろ、いつまで寝てるつもりだ」

朝、いつもの言葉を掛けられ、一日が始まる。

ただ、いつもと違ったのが、声を掛けるその声の主が違った。

「……アッシュ、何で居るんだ…?」

最近、ルークを起こす当番は大抵ティアだったのだが。
寄りにもよって。

「たまたま通りかかっただけだ」

なんて下手な嘘。
ルークは笑いそうになるのを堪えて、再び布団の中へと潜り込む。

「早く起きろ!」
「……名前」
「…?」
「名前呼んでくれなきゃ起きねぇ」

子供じみた事を言ってみる。
アッシュに名前を呼ばれた事があるのは、数える程しかないのだ。
だから、呼んで欲しい。

「馬鹿か。そんなに名前に固執する必要なんてねぇだろ」
「──…」

馬鹿にしたように言われ、ルークは目を見張った。
こんな生まれでなければ気にしなかった、名前の必要性。
奪った名前が自分の物だなんて図々しい事を思ってはいないが、それでも今はレプリカの物だとオリジナルは言う。

「……自分の名前だから呼びたくないのか?」
「…何?」

布団の中から聞こえた声。それに眉を顰め、アッシュは布団を勢い良く捲った。

「……何拗ねてやがる、さっさと起きろ」
「拗ねてねー」

枕を抱いて顔を埋めるルークの姿を見て、拗ねていないと言うのは如何な物か。

「馬鹿か。……起きろ、ルーク」

はっきりと短く言われた言葉にルークは顔を見せた。
アッシュは額を押さえ、顔を逸らす。

「……さんきゅー」

呼び慣れない自分の名前を呼ぶ抵抗にアッシュはいつものように眉を顰める。
それと対照的にはにかんだ笑みを浮かべたルークは起き上がると、素直に笑った。

「何だって名前に固執するんだ」
「……名前呼ばれたら、俺が『ルーク』だって事、相手が認めてくれてる気がするから…かな」

苦笑を浮かべるルーク。

「お前にこんな話、嫌味にしかなんねぇ…よな? ごめん」

言った事を後悔したのか、後ろ頭を掻いて靴を履く。

「お前は名前に囚われずに生きりゃ良いんだ」

顔を上げると見下ろしているアッシュと目が合って、ルークはもう一度後ろ頭を掻いた。

「……罵ってくれた方が楽なのに」
「レプリカのお前にしか出来ねぇ事だ」

今更気にするな、いつもの傲慢な態度でそう告げるアッシュの声に、ルークは小さく言葉を紡いだ。



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