目を開けると、何もない世界に1人。
草原の中、ゆっくりと歩いていた。
小さい頃からよく見るこの夢。夢だってわかっているのに、いつも違う行動は起こさない。
そろそろだ。
見えてきた燃えるような紅に、目を奪われる。
何だか懐かしいようで、不安なその紅。
俺はいつもその後ろ姿を追いかけて、近付こうとする。
走れば走る程遠ざかっていく紅。
近付けない事は当に知っている。ただ、追いかけないと不安になるんだ。
暫くして辿り着いた先は、俺の育ったこの公爵家。
紅はいつも公爵家を懐かしげに見つめているんだ。何をするわけでもなく、ただ見つめている。
そして、振り返ろうとした時に夢は終わる。
「お前だったんだな…」
「何がだ」
「夢に出てくる奴」
「……」
今となっては説明もつく。
ずっとずっと帰りたかったんだと。俺を憎んで、それで毎日を重ねてきたんだろう。
それを生きる意味として。
「アッシュは、幸せなんかじゃなかったよな…」
「……さぁな」
「……」
居場所を奪われて、存在を忘れられて。
そんなの俺には耐えられないと思う。
レプリカという言葉だけでも、こんなに重いのに。
「……ごめんな」
「お前が謝る必要はねぇだろ、それに俺は幸せじゃなくもない」
そう言って頬に触れてきたアッシュの手は、温かくて安心できた。
これは預言でもなんでもない。
運命なんてものもない。
出会った証は、ここにあって。
深く、深くなっていく。
いつだって、呼んでいたんだから。
2人の絆は、あったんだから。
「俺は、アッシュに会えて幸せだよ」
「………そうか」
「うん」
擦れ違ってたガラス玉が、今、重なった気がした。
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