なに間抜けな顔してるのさ、と笑う彼に、
言葉を返せないくらい驚いてしまった。

だって、俺…





届いた指先で
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Effacez la solitude






「………」


俺は今、何に驚けばいいのだろうか。

補習から帰ってきたら彩花ちゃんが家に上がってたことだろうか。

クビアがリアルに存在していることだろうか。

それとも、


「クビアくん、これはどうかしら?」


ナチュラルにクビアと打ち解けちゃってる母ちゃんの異変にだろうか。


「なあ母ちゃん」
「なあに、トキオ」
「普通ここ、驚いたりする場面じゃないの?」


俺が連れてきたならまだしも、そうでない上にクビアは玄関すら通っていない。
ある意味不法侵入、怪しさはMAXだ。
それに母ちゃんは一瞬きょとんとした表情を浮かべ、少し考えてから
わざとらしいウインクで応えた。


「人を簡単に疑っちゃダメよ、トキオ☆」
「ここが都会じゃなきゃそうだけどね!?」


条件反射でツッコミを入れる。
その俺を軽くあしらい、「冗談よ、天城さんから聞いてたわ」と応える。
母ちゃん、俺で遊ばないで。

彩花ちゃんの方を軽く見やる。
彼女も肯定のようで、いつもの表情で俺を見た。
…つまり、知らないのは俺だけだった…と。

なんだよー、と少しむくれる。
そんな俺の横で、黙っていたクビアがふいに口を開いた。


「オマケの服小さくて入らない」


…なんか、吹き出しから矢印が出て俺に突き刺さる感じがした。
セリフを聞く限り、さっきの服選びの延長っぽい。

言葉の衝撃に耐え、クビアに視線をやると
上半身裸の彼が脱いだ服を持って俺を見ていた。
しかも笑っている。

なんだか嫌な予感がして、無言になる。
その俺の肩に腕をおいて、やや姿勢を低くしたクビアが続けた。


「身長もオマケサイズなんだねw
何cm?w」
「うわあー!!聞くなー!!」


やっぱり身長ネタ。
クラスでも低めの俺には、触れないでほしい話題だった。
少しいじけてくる。

俺はこれから伸びるんだ!
ちっさくなんて…ない。
うぅ。

そんな俺に満足したのか、やけに楽しそうに笑う彼は
俺の顎をつかんで視線を自分に縫い付ける。


「オマケは低くていいんだよ
僕のなんだから」


直後にいつものスマイル。
一気に羞恥心を煽られた俺は顔面の熱が上がってしまって。
彩花ちゃんと母ちゃんにモロに見られているのが恥ずかしい。


「クビア、あの、場所と言葉選んでくれない?」
「僕は隠す理由ないよ」
「いや、俺がね!?」


男に口説かれる俺とか見られたら、リアル的にはヤバいんだよと訴えかけるも、
楽しんでるらしい母ちゃんはそれを阻んで言った。


「大丈夫よ、トキオ。
お母さんは偏見持ってないから!!」
「どういうフォローなの…!?」


俺わかんないんだけど、とボヤくも、母ちゃんが返すのはグーサインだけ。
何がグーなんだ。
母ちゃんそういう属性だったのかよ。

困って彩花ちゃんに助けを求めてみても、即座に視線を逸らされた。
知らないわと言わんがばかりの鮮やかな無関心だ。

四面楚歌な俺の気を引き戻すように、クビアが口を開く。


「なに、
トキオは僕と会えて嬉しくないの?」
「え…いや、それは…」


口ごもる。
視線を泳がせる俺と、視線を外さない彼。
顔の近さもあってか、妙に恥ずかしくて鼓動がうるさい。

俺が自ら言うことを待っているらしい彼は無言で。
小さい声で、応える。


「会いたかった…よ、俺だって…」


テスト週間が始まって、早1ヶ月。
母ちゃんや先生からゲーム禁止令とかキツいものが出され、ゲーマーの俺はショックだった。

でもなにより
クビアと会えないのがつらかった。
成績が悪くて、再試や補習で禁止期間はどんどん延びてくし。


「寂しかったよ…」


本音を零して沈黙する。
背後で後悔する母ちゃんを後目に、彼は額に口付けてきて。
驚いて固まった俺は、彼の腕の中にとらわれる。


「当然」


触れる肌から、少し早めの鼓動が聞こえた。


「僕を放っておいた分、ちゃんと一緒にいてもらうからね」





(クビアくん、かわいいのにたくましいわね)
(トキオが女の子に見えるわ)
(Σそれはないよ母ちゃん…!!)

2010.05.14