――素体同調、振動数クリア

プログラム準備OK


……始めます!





スクリーンの向こう側へ
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Descendez






「おかえり、遅かったわね」
「………」


そう、お茶を手に持った彩花ちゃんが言う。
驚きのあまりに、俺はリビングの扉を開けたまま停止した。

あれ、ここ俺の家だよな。
頭の中でごく当たり前な自問自答。

何固まってるのよ、と彩花ちゃんに言われ、
ごめんと軽く謝り、リビングに入る。


「俺に何か用?」
「ええ。
はい、これつけて」
「え?」


手渡された…否、押し付けられたものは、腕輪。
どこにでもありそうなシンプルな銀金属に、何かが彫ってある。


「彩花ちゃん…なにこれ」
「害はないからつけて」
「答えになってないよ…!?」


何かわからないのにいきなりつけてと言われても…という俺の言い分は完璧に蚊帳の外、
彩花ちゃんが浮かべる黒い笑顔の催促に押し負ける。何も起こらないことを祈りつつ、腕輪をはめる。
つけたよと言って顔をあげれば、彩花ちゃんはノートパソコンを起動させていて。
それを指差し、変わらない命令口調が告げた。


「トキオ」
「なに?」
「画面に触りなさい」


なんで?
何が起きるんだ。
果てしなく不安だけど、さすがに俺の家で前みたいなことはしないだろうから
言われた通り、パソコンに触れてみる。

刹那、バチッと音が鳴った。

一気に自分の決断に不安を抱き、血の気が引いていく。


「ええぇぇ…さ、彩花ちゃん…!!」
「そのまま触ってなさい!」
「は、はいぃ…!!」


リビング全体に響くほどの音。
直に聞いていると頭が割れそうで、思わず目を瞑る。

少しの間それは続いて、やがて音は収束して消えていく。
同時に、何かが俺を抱き寄せてきて。
驚いて目を開けば、白い布と細い髪の毛が見えた。

覚えのあるこの感覚に数秒遅れて気付き、それと同時に体が離れる。
黒い髪、黄昏色の瞳。
淡く微笑んで発せられるのは、高い声とわざとらしい言葉。


「久しぶりだね、オマケ」


反論すらできず、俺はそのまま固まった。





(バランス維持良好…成功です!)
(俺の被験、実ったんだ…わーい)
(僕のロストも無駄じゃなかったんだネ…)

2010.05.05