みんなが居ても、
前に進もうと決めても、

それでもやっぱり、
たまに落ち込んでしまうから





そんなところが厄介なんだ
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Mais parce que c'est la chose qu'il voulait






「はぁ…」


ため息ひとつ。
人のいないエリアで、アイテム神像を開けながら。

リアルで、がんばっていこうと思う気持ちは変わらずあるけれど。
それでも少し、疲れることはあって。

いつもは昴に話したりしていたけど、今日はあいにくの留守。
気分を紛らわそうと入ったエリアも、神像までくれば終わったも同然だった。


(今日は昴、来るの遅くなるって言ってたっけ…)


グランホエールに帰ってもまだ居ないだろうな、と思うと気分が下がる。
今日はお喋りな連中と絡みたくない。

とくにミミルは、僕のテンションを上げようと一生懸命になることが多い。
しても上がらないし、彼女の機嫌を悪くしたくもない。

帰っても意味がないのなら、昴がオンラインするまでここでぼうっとしていようか
そう思いながら振り返れば、視界に橙の彼が映る。


「お、司発見!」
「………」


素直にびっくりした。
何故ここにいるのかと、思いながらも固まってしまって。
無言の僕に少し困ったのか、彼はどうしようという表情になる。


「……なんで、ここにいるの」


困らせるのもなんだか気が引けて。
話題がないから、そう率直に返す。


「ん?ああ…えっと」


言葉に詰まり、頭を掻く動作を見せる。
少しして、「偶然ここに入ったんだよ!」とか言うけど視線が僕に向いてない。

嘘でしょ、と聞き返せば、
なんでバレたと言わんがばかりの表情を浮かべる。
おもしろい。


「いや〜…内緒にしてくれって言われたんだけどなあ」
「誰に」
「……ミミルに…」


なんか司が元気ないみたいだからって、
そう言う彼は、申し訳なさそうに視線を泳がせる。

大方、自分では僕にいい言葉をかけられないと思ったミミルに頼られたんだろう。
彼はお人好しだから…


「……まあ、どうでもいいけどさ」


言いながら、内心でどうしようかと困惑する。
ミミルももう少し人を選べばいいのに。

僕がトキオを好きだと知っていてやっているのだろうか。

素っ気なく視線を外して気持ちを振り切ろうとするけれど、
彼は僕を振り切ってくれない。
僕の名前を呼んで、繋ぎ止めようとする。


「なあ、司」
「……なに」
「その…、何かあったのか?」


僕の反応を気にしながら聞いてくる。

…悪いけど、彼には言いたくない。


「……別に」


関係ないと言いかけて、言葉を飲み込む。
代わりに、大丈夫だよと言っておく。

けれど表情のはれない彼は、少し戸惑って。
おもむろに僕を抱きしめた。


「………っ、」


なにをするの、と細る声で問う。
何が起きたのか、わかるけどわからない。
気が高ぶって、頬が熱くなる。

安心するかなと思ったから、と返ってくる言葉に、
ばかじゃないのと言いかけて、消える。

安心しているのは、否定できなかった。


(……もう、
トキオは変なところでタイミングがいいんだ…)


言ってもいないのに、
僕が欲しいものを見抜いてしまう。

僕がまだ閉じ込められていた時なら、この腕は暖かかったのだろうか。

体温はわからないけれど、
彼のやさしさは確かにあたたかかった。





(…あ、ごめん)
(司…女の子だっけ…;)
(…気にするの今更じゃない?)
(別に、いいよ…トキオだし)

2010.04.15