僕は弟が羨ましい。





wall




「………居ないのかな」


僕は神代の家の前で立ち尽くしていた。

約束なく神代の家に来たはいいが、呼び鈴を鳴らしても降りてくる気配がない。

困っている僕に、和臣が口を開いた。


『寝てたりして』
「まさか。もう朝の九時だぞ」
『…いや、“まだ”朝の九時だろ』


まだって、九時はそんなに早いのだろうか。
平日なら学校が始まっている。


『俺が見てきてやるよ』
「え、ちょ…和臣、」


そう言うやいなや、和臣は二階まで浮遊して行き、覗き込んだ。


『起きてんじゃん』


朋臣来てるぜ、と笑いながら言ってる姿が見える。
しかし少しなにか揉めたのか、考えこんだ和臣がにょろりと部屋へ入った。


「………」


あぁ、なんだか…和臣が羨ましい。
僕は重力とか物質に阻まれて神代の所へ行けないというのに。

実体でない和臣は、そんな束縛がなくて。

少し経って、目の前の扉が開き、神代が出て来た。


「悪い、ちょっと部屋が散らかってて」
『嘘こけ、朋臣の絵「お前は黙れ」』


照れてやんのー、と笑う和臣。
何を言おうとしたのか見当がつく。


「いや、こっちこそ押しかけてすまないな。おはよう」
「あぁ…、おはよう」


実体がなければ壁もないが、実体があれば触れられる。

そう思い直して、僕は笑った。