ある日、和臣が俺に言った。


「神代」
「なに」
「賭けをしよう」
「嫌だ」


即刻拒否した。



実力行使。

Ability exercise




「なんでだよ。まだ何も言ってないのに」
「賭けだろ?少しはお前に分があるから持ち掛けてんじゃないのか」
「勝ちが確定してたらつまらないだろ」


ぶすっ、と不機嫌そうな表情に、ふてくされたような声。


「ふうん?じゃあ言ってみろよ」


聞いてから決めるから、と付け加えると、不機嫌そうな顔が一転、笑顔になる。


「今日の放課後、お前が屋上に行ったら誰が居るか。それを賭けよう」
「ふーん…まあいいけど」
「賭けだから2組に分ける。
帯刃・二見・槌谷か、それ以外」


先輩を普通に呼び捨てかよ。

まあ、朋臣はあまり屋外に出ないし、前者の確率は高い。特に槌谷。


「じゃあ前者」
「じゃあ、俺は後者だな」


放課後が楽しみだ、と笑う和臣。





――放課後。

俺は屋上を見回した状態で固まっていた。


「………」
「よ、神代。俺の勝ちだな」


にこやかに言う和臣。

屋上に最初に居たのは…言うまでもなく和臣だった。


「待て、お前は分類されてなかっただろ」
「言わなかったか?後者は“それ以外”だって」
「な…ッ」


しまった、はめられた。

俺は“それ以外”を“高階・朋臣・叶先生”だと思っていたが…和臣も入っていたらしい。

普通、賭けに俺達は入らないという先入観による失態だった。


「…って、お前が勝つに決まってるだろ!!卑怯だぞ!!」
「俺は放課後になってから来たし、俺より先が居るかもしれないだろ?」
「その“お前より先”は俺も入ってんだろ」
「ご明察。」


にこにこ笑いながら言う和臣。黒い。
最初の不機嫌そうな顔は演技だったのか。


「人数に差がありすぎるッ、無効だ!」
「異議を唱えなかったじゃないか」


核心をついてくる。何が何でも譲る気はないらしい。


「……ッ」
「終わり?なら俺のお願い聞いてくれるんだな」
「…なんだよ」


俺は不快を隠せず、視線を逸らしながら尋ねた。


「お前の体に入りたい」
「何する気だ」
「何って…
野暮だな、お前」


そう言った和臣の表情がやたら妖艶だったので、無意識に身体を退けた。


「あれ、何逃げてんだよ」
「こ…っ、こんなとこでそんな提案受けれるかッ!!」


前記にあるが、槌谷が来る確率は高い。


「逃げるなよ」
「逃げるに決まって…、…ッ!!」


退く身体の筋肉が、一瞬にして強張る。

――動けない。


「もう1つ忘れてるだろ。
俺、幽霊だぜ?」
「か…金縛りは身体の睡眠が覚めてないから起きるものだろ…ッ」
「理論上はな。でも幽霊が出来ないという理論はない」


――やっぱり賭けなんてするもんじゃない。

俺は今更後悔した。