他のプレイヤーの居ない、
モンスターも倒してしまったから
居ない、

静かなエリア。


海に囲まれた島のようなタイプのエリアで、海を眺めていれば、何処からともなく、
俺の隣にはトラが座って来る。


そして決まって俺の肩を抱いて
引き寄せるのだ。

いつもの事とはいえ恥ずかしいのだけれど、
優しくて、愛されてる
そんな気がして好きなのだ。

引き寄せたらその細い腕から
出る強い力で腕、胸の中へと
収めるから。


大抵、一人で景色を眺めていると、いつの間にか現れてはこうして彼は愛情表情行動をするのだ。

トラは言葉を発するのが苦手。
そのぶん、行動で示し、
時には痛いくらいに離さない。


彼とは恋人…そんな仲。


だが、今日は珍しく
普段は喋らないトラが、
口を開いた。


「 …ハセ…ヲ………。」

『 ん? 』


名前を呼んでくれたけど、
何か声音的に、言いにくい事があるらしい。

喋る事が苦手な彼は俺を抱き締める腕の力を少し強め、耳元で問う。


「 ハ…セヲ…は、………本当…に、…僕…が………好き…? 」

『 え…? 』


そう問うた彼の声音は、
いつもより低く、
語尾がかすかに震えていた。



「 僕に、は…力………は…あって…も、…他に…は、………何も、無い…から………。」

『 ………。』


コミュニケーションと言うものをとるには色々足らない彼だからこそ、
恋人の仲とはいえ不安らしい。


「 君を…幸せに、…し…て………あげ…ら…れない、…から…。」


何も無いとか、
何も出来ないとか、
そんなことないのに…。

 
 
トラは、うつむいた。

俺は、彼の腕の中
身をひねり、うつむいた顔に両手を添え、
精一杯の思いを込めて囁く。


『 確かにトラには他の人よりも足らないものがある………けど、
俺を誰よりも愛してくれるのは
唯一、お前だけだろう? 』


はっと顔をあげた彼の前髪を掻き分け、額に軽く口付ける。

掻き分けた拍子に彼の深く被った帽子が落ちたけど、互いに気にも止めていられなかった。

自分の顔が熱い。
きっと俺の顔は紅くなっているだろう。


目の前の彼はこれまた珍しく、クスっと微笑むのだった。



「 誰より、…も…愛して…る…よ、…ハセヲ…。」


どちらともなく互いを抱き締めた。強く、強く。
もう、今までにも増して離してやれない。


不器用だけど熱い思いは誰よりも秘めてる、俺の恋人。

普段は素直じゃないのにこういう時はきちんと思いを打ち明けてくれる、僕の恋人。


これからは今までよりも甘い時を過ごすだろう。

素直じゃない僕の恋人は恥ずかしがるだろうけど。

俺の恋人の為に少しは素直になろう。きっと恥ずかしがってしまうけど。



貴方の思いを知っているが故に



End