ねえ、笑って

それだけが僕の望みだから





笑ったあなたが、すき
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Sembra essere totalmente
un miracolo






今日も僕の周りは相変わらずで。
あなたも相変わらず不機嫌。

机に肘をついて、眉根を寄せて余所見をしている。
前に座っている僕に向いていないのが、不機嫌のしるし。


「ねえ」
「なんですカ」
「拗ねないでよ…?」
「…拗ねてません」


あからさまに拗ねている。
声も表情も変わっていて随分わかりやすい。

話は簡単、
彼は僕を悪く評価する人間を疎んでいるのだ。

現に彼が睨む先、
僕の陰口をたたく輩がいる。


「嘘。拗ねてるよ…」
「………」


黙り込んだ。
ほら、図星じゃない…?


「…仕方ないじゃないですカ…」


アナタがどんな人か知れば複雑な気分になるんです、と
心苦しそうに言い、机に俯せる。

つい最近までは彼もあちら側の一員だった。
自分と同じことをしようとしている僕を過去の自分に見立て、排除しようとした。
そうして過去の自分を消し去ろうとするかのように。

今度はその排除しようとした自分と同じ人種が居る。
それが嫌なのだろう。

損な立ち位置のひとだ。


「ねえ」
「なんですカ」
「笑って」
「ハイ?」


この話の流れで何故そうなる、という表情で彼は顔をあげた。
それを笑いながら見つめる。


「あなたの笑ってる顔が見たい」
「………」


彼は複雑極まりない表情になった。
こんな状況で笑えない、と顔に書いてあるかのよう。


「僕は、嫌われるのはつらい」
「……ええ」
「でも…あなたが笑うと、そんなものどうでもよくなる」


彼の頬へ手を伸ばす。
片方の赤い目は、僕をじっと見ていて。


「あなたの笑顔がすき…
だから、あなたに笑ってもらえるなら…」


こそばしてでも笑わせてあげるよ?


そう言えば、張り詰めていた空気が拍子抜けして壊れる。


「………なんですか、それ」


口説き文句にしては微妙ですヨ、と破顔しながら言う。

ああ、その表情。
たまらなくしあわせになる。


「口下手なんだ…僕」
「ええ、下手デス」
「でも…強欲さでは誰にも負けないよ…?」


あなたが笑ってくれることばかりを願う。
平和と笑顔を願う気持ちにすら似たこの強欲さは、きっとあなたが好きだから。


「ねえ、笑って…?」
「…お望みのままに」


ふ、と笑む彼が、
僕の凍えた心に春を呼ぶ。





(ねえ、ヴィンセント)
(なに…?)
(ワタシにも笑顔を見せて)
(…いくらでも)

2009.09.21