七夕。
それは、天の恋人が一年に一度の逢瀬をする日。
それを祝い、何故かお願い事までするのがこの世界のおもしろい習慣。

ここも例外なくそうだった。





ひとつだけ願うのなら
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Oggi inondi con un sorriso






七夕前日。


「はーいみんな、短冊はもらったかな?」


そう、笑顔で語りかけるのはジャック先生。
この育成所で、生徒に色々なことをしてくれる先生だ。

そのジャック先生が言う短冊を、今配っているのがシャロン先生。
ジャック先生とは反対で、やさしいのだが悪さが過ぎると鬼のように怖い。

…短冊が、最後のエリオットへと手渡される。


「じゃあ書くものを持って。
お空のおりひめさまとひこぼしさまに、お願い事を書くんだよ」


はーい、と響く声。
それを皮切りに、こども達は分散した。





「ねえアリス、
アリスは何をお願いするの?」
「わたしは‘たべものがたくさんたべれますように’にする!」
「あはは、アリスらしいね」

「エリオットくん…
なにをかいた…?」
「…‘だいじなものをまもれるようになりたい’」
「ふふ…
すてき…だね」



「………」


「何をみているんだい、ブレイク」
「……ヴィンスのをみてましタ。
たんざくはまだありますか、ジャックせんせい」
「?ああ、あるよ」


はい、と言ってブレイクに短冊を渡す。
それを受け取り、文字を書いて笹へ飾る。

しかし彼のテーブルには最初もらった短冊に言葉が連ねて置いてある。


「ブレイクの短冊はこっちじゃないのかい?」
「そっちはらいねんのデス」


いまはいりません、と言って踵を返す。
ブレイクはそのままギルバートのほうへ走っていって、いつものごとくからかいだした。

ブレイクとヴィンセントが書いた短冊を見上げる。





『ぼくもみんなもしあわせがいい』



『ヴィンセントのがかないますように』










(おいオズ、このふたりのたんざくみろ)
(ん?
………あ。)
(なんだずるいぞこいつら)
(にまいめ…だめかな?)
(にまいめはいいあんだな!
よし、かくぞ!わかめもだ!)
(ぼくはわかめじゃありません…!!)

2009.07