羨望、というのだろうか。

僕にはない繋がりが、
なんだか羨ましくて。





ないものねだり






「兄さん」
「ん、なんだ?」
「この件なんですが…」

そう、会話をしているのはアスベルとヒューバート。
僕はそれをぼんやりと見ながら、いいなあ…と思っていた。

彼らは兄弟だ。
家族というものだから、友人とは違う強い絆を持っている。
その上、離れてしまうまでは同じ屋根の下で暮らしていたのだ。

傍に居たくてもなかなか居られない僕には、どことなく羨ましくて。

「何をしてらっしゃるんです、陛下」

背後から呼ぶ声に、振り返りながら応える。

「シェリアさん。
いえ…少し、羨ましいなあと」
「あの2人がですか?」

その言葉に肯定を示す。
そういえば、彼女もアスベルとは幼なじみという絆がある。

「僕には無い、強い絆があっていいな、って…」

特別な絆には、特別な呼び名がつく。
彼らの場合、ヒューバートが「兄さん」と呼ぶことで表れている。
無理なのはわかるが、僕も混ざりたい。


「兄弟っていいですよね。
なんだか仲がよくて」

ふふ、と笑って彼女が同意してくれる。
彼女も同じことを考えたことがあるのだろうか。

ぼんやりとそう思っていれば、視線の先ではパスカルさんがヒューバートに突撃していた。

じゃれているのだろうが、直撃をくらった本人はパスカルさんに向かって怒鳴り声をあげる。

「でも、私には陛下の持ってる絆も羨ましいですよ」

出会った初日に友情の誓いって、すごいんですから

そう言い残し、彼女は三人のいる方へ走って行った。

宥める彼女を見ながら、残された言葉に対して
確かにそうだな、と思った。





(俺達が兄弟だったら?
やっぱりリチャードが兄さんなんだろうな)
(僕は弟が2人かい?)
(ははは、
頼りにしてるよ、兄さん)

製作 2010.01.11
再録 2011.01.29