君の声、姿、心

なにより笑顔が、僕をあたたかい気持ちにさせる。





窓の外から






「リチャード」

僕を呼ぶ声。
声の主に視線を向ければ、白衣を纏う君が立っていた。

「やあ、アスベル」
「どうしたんだ、こんなところで」

こんなところ。
そう、僕がいるのはまさにそんな形容しかない場所。
ラント領主邸の、客間の窓の外だ。

付け加えるなら、アスベルは客間の中。
3cmの身長差は、屋内外で完全に逆転している。

僕は彼を見上げながら言った。

「懐かしくてね。
…君とはここで会ったから」
「あー…そ、そうだな」

幼い頃の自分の不躾さが恥ずかしいのか、彼は頭を掻いて困った表情を浮かべる。

くすくすと笑えば、笑うなよ、と言われた。

「僕はここで君に会わなかったら絶望に負けていただろう」
「リチャード…」

青と紫のオッドアイが悲しそうに歪む。
彼の紫に潜む幼子は、話を聞いているだろうか?

「でも、君は僕を繋ぎ止めてくれた」

彼が嫌ってくれたら、と望んでも
そんなことは決してしない君の人間性を汚すだけ。

僕が嫌えたら、忘れられたらと望んでも
大切なうれしい記憶を手離したくなくて。

結局残るのは、わからなくなることを怖がる自分と、
情けないまでの助けて欲しいという気持ち。

「君が君でよかった」

悲しみを浮かべる彼に、大丈夫だよと笑顔を向ける。
こんなものでさえ、君からもらったもの。

僕に伝わった笑顔は、君に伝わるだろうか。

「…俺も、リチャードがリチャードでよかった」

ふわ、と笑む彼に、うれしい気持ちが増す。

忘れてしまいたくないもの。

どんなに暗い場所でも
僕を僕でいさせてくれたもの。

「ねえ、アスベル」
「なんだ?」
「そっちに行っていいかい?」

窓から、
そう言うと、彼は目を見開いた。

靴はどうするんだよと、慌てる彼が微笑ましい。

「会いたい」
「〜〜…、わかったよ、俺がそっちいくから」

少しの時間すら惜しいのがわかっているのだろう、彼は窓に手をかけた。
彼が地面に足をつかないよう手を伸ばして抱きとめれば、
頬を朱に染めながらも抱き返してくる。

この重みすら、愛おしい。





(君が信じてくれた僕を)
(僕は信じるよ)
(君がいれば、進める気がするんだ)

製作 2010.01.10
再録 2011.01.29