ばたり。

音の先には、法陣士の彼女が倒れていた。





あなたが居ないと






「……んぁ」

ぱちくり。
彼女は目を覚まして数秒、そんな様子で瞬きをした。
まだ少しぼーっとするのか、認識に時間がかかっている。

そしていきなりガバッと起き上がり、口を開いた。

「ここどこ?
あたしどうしたんだっけ?
弟くんは何してるの?」

開口一番、質問を3つも用意しているとは
違う意味で尊敬する。

僕は読んでいた本を置き、彼女に向いて応えた。

「ここはラントの領主邸です。
あなたは急な気温変化の環境に耐えかねて倒れたのです。
僕は看病です。
以後、質問はひとつずつでお願いします」

あ〜、と、自分がまるで関係ないかのように頷いて。

僕の最後のセリフはちゃんと聞いたらしく、質問はひとつずつ聞いてくる。
…一々、右手を上げて言うのが理解できない行動なのだが。

「で、弟くんはいつから居てくれたの?」
「ここについてからです」

彼女はその返答に、おりょ?と言葉で反応を示した。

「そんなに心配してくれてたの〜?」

猫のような人懐っこい表情でそんなことをさらりと言う。
僕は慌てて否定した。

「?!ち、違います!
兄さんとソフィは疲労が溜まってますし、シェリアは買い物に行ったんです」
「教官は〜?」
「…散歩です」

へえー?と、好奇心に満ちた目が僕を舐めるように見る。
まずい、疑われている。

「あたしが倒れてから結構経ったんだよね。
シェリアのお買い物長いね〜
教官の散歩長いね〜」
「………っ」

この言葉は確信犯なのか。
わかってて逆撫でしているのか。

上手く言うこともできるが、彼女が態度を崩さない可能性も高い。
僕は、頬の熱を否定するように話を転換する。

「それは置いといて。
あなたはもう少し自分の体調に気を配ってください」
「おお?」
「あなたを運ぶ人手で戦力も減りますし、時間もかかります」

くどくど、説教のように言えば彼女は耳を塞いだ。
しかし口元は笑っている。

「その笑顔はなんですか。
反省の色が見られませんね」
「弟くん」
「なんです」
「ごめんね」


いきなりの謝罪に面食らっていれば、彼女は満面の笑顔を浮かべた。

「あたしがいなくて寂しかったんだねー!」
「誰がそんなことを言いましたか!!」





(あいつも、パスカルの明るさが好きなんだな)
(こじつけで言い訳してるけどね)
(ヒューバート…パスカルが好きなの?)
(背負って運んだのもヒューバートだしな)

製作 2009.12.31
再録 2011.01.29