「ねえアスベル、
友情の誓いを僕達流にしない?」





きみと誓う






事の発端はリチャードの言葉だった。
自分達流というのには素直に賛同できるものだったので頷いて返したのだが…
今では全力で首を横に振りたい。

なんでってそれは、

「リチャード、やめないか?」

今の俺は背に大木、前にリチャードと逃げ場がなく
かつ、リチャードの顔が自分の眼前にあるから。

横はもちろん腕で阻まれている。

「何故だい?
君も賛成してくれたじゃないか」

不思議そうに聞いてくるけれど、口元は正直に笑っている。
これは俺の反応を楽しんでいる。

「いや、自分達流というのには確かに賛同したが、なにも」
「ならいいじゃないか。
僕、一生懸命考えたんだけれど…?」

言葉を遮って、自分の努力で反論を拒む。
お前が頑張ったのは、どうやったら俺にこうすることができるかじゃないのか…?!

「いや、でもなリチャード」
「何かな?」
「俺達は男だ」
「そうだね」
「しかもここは屋外だ」

いくらラントの花畑とはいえど、立派に屋外だ。

「そんなところでキ…、キスなんて……」

言っている自分が恥ずかしい。
ああもう、なんでよりによってキスなんだ。

「愛の誓いはキスだ。
なら、友情の誓いもキスでいいと思うのだけど…?」
「愛と友情は違うだろ?!」

どんなこじつけだ。
変な理論を使わないでほしい。

恥ずかしさのあまりに声がひっくり返った俺に、叫んで嫌がるような印象を受けたのか
リチャードは俺の目を見据えて言う。

「アスベル…」
「な…なん、だ?」
「君は僕が嫌いかい…?」

…ずるい。
俺の気持ちを知っていて言うなんて、卑怯だ。

それでも素直に受け入れられず、横を向いて応える。

「…嫌いじゃ…ないが…」
「ん……?」
「ば、場所を考えろよ…」

こんなとこでキスできるわけないだろ、と。
言葉にはならなかったけれど、多分わかったのだろう
リチャードは、やわらかいのに悪戯な笑顔を浮かべた。

「友情の誓いは木の前で…なんだろう?」

…引く気はさらさらにないらしい。

「で、でもな…」
「…いいよ…?
アスベルがしてくれないならソフィとするから」
「な…?!」

彼女とも友情の誓いをした仲だからね、と笑う。
ソフィは純粋で何も知らない。
キスが理解できずに承諾してしまうだろう。
それはまずい。

「……っ、わかったよ…」
「ふふ、最初からそう言えばいいんだよ…アスベル」

勝ち誇ったようないい笑顔を浮かべ、逸らしていた俺の顔を前に向かせた。
大木に後頭部を預けさせられ、ゆっくりと近付いてくる。

俺は、気恥ずかしさに目を閉じた。

「……っ、ん…」

唇に柔らかい感触。
触れた唇に羞恥が膨れ上がり、頬が熱を持つ。

恥ずかしい。
リチャードのことは好きだが、屋外だと思うといたたまれない。
一秒が長く感じられて、早く離れてくれとばかり願ってしまう。

けれど、彼が離れるのはまだまだ先の話。





(僕達流の誓い、またやろうね)
(待て、一度でいいだろ)
(クスクス、逃がさないよ?)
2009.12.29