6時限。
持ち授業もなく、教員室にいるのも飽きたオレは、ぶらぶらと校門へ行った。

その行動に意図はなく。
故にやることもなく。
なんとなしにボンヤリ、風景を見ていた。

ここは人工物ばかりだ。
別に自然が好きなわけではないが、人工物は好きではない。
くだらない人間ばかりが集まるから。

(でも、スパちゃんはすき)

この、流されながら生きるのが一番賢いこの時代。
そんな機械にも似た人間が蔓延る社会で、彼はもっとも人間らしかった。

動物とは違う気高さ。
瞳に宿る強い誇り。

そんな強い存在感を持ち、尚まっすぐな彼が好きだ。

…理由など後付けに過ぎないのだけど。

そんなことを考えていれば、視界に入るライトグリーン。
明らかに今考えていた彼の髪の色。
しかし表情が見えない。

(なんで下向いてるんだろ)

いつもの彼なら、自分を嫌がって逃げるなり走り抜けようとするのに。
俯いてとぼとぼと歩いて来る。

顔をあげる素振りを見せない彼に、いつもの調子で話しかけてみる。

「やあやあスパちゃん。
どうしたの花嫁みたいな顔して」

そう言ってみたが反応はなく。
しかし、歩いて揺れた髪のむこうに彼の瞳が覗く。

グレーの瞳は、どこか憔悴した色を映していた。

それに驚くが彼は止まらず。
過ぎ去る前に、その身体を抱き止めた。

「どうしたにょろ?
とっても暗い」

それに反応すら返さず、彼はオレを押しのけようとする。
オレは離さない。

「…離せ」
「やだ」

(こんなに弱々しいのに)

離してしまうと、彼がどこかに消えてしまいそうで。

「……離せ!」
「やだ」

感情任せな声がオレに向けられるが、負けじと返す。
それに彼は押し黙ってしまう。

今の彼は、一人では立てない。
ぎゅ、と強く抱きしめれば、びくんと震える様だ。

(ほら、ダメだりゅん)

虚勢を張る気力すらもう無いのか、彼は大人しくオレの腕の中に埋まった。

「…卑怯…者」
「なにが?」
「なんでもねえよ」

そう呟いて、もたれかかってくる重み。
うっすら見えた涙に、オレは黙って頭を撫でるだけだった。





..崩れてしまいそう

再録 2011.01.29