「スパちゃ〜ん♪」
「だあぁぁッ、来るなァァ!!」



..俺をつけまわすピンク



今日は晴れ。
秋に差し掛かったくらいの季節で、気温は涼しく太陽が暖かい。
空はどこまでも蒼く。

……俺たち二人はどこまでもいつも通りだった。

「待って〜」
「だ れ が 待 つ か よ ! !」

そう叫びながら俺は全力疾走中。
理由はもちろん、大嫌いなピンク――ハスタから逃げるため。

しかし全力で走っているにも関わらず間は開かず縮まらず。
ヤツも伊達に体育教師をしていない。だが余裕ぶっこいてんのはなんかムカつく。

なんだよそのスキップみたいな足取りはよォ!?
なめてんのかよ!!

「いい加減どっか行けよ!!」
「やだぷー
お話ししようぜ!ヘイ、メン」

会話?断固拒否したい。
あの意味不明なヤツと会話など無理だ。イライラする。
今だってイライラしているのに。

そんな気分が面に出ていたのか、偶然廊下を歩いていた後輩のルカがひきつった表情でこちらを見ている。
隣に居たイリアが「ひゅーひゅーw」とか言っていたが今は無視だ。後で殴る。

ふと時計を見上げれば、あと数分で授業開始。

「ッ、本鈴鳴るぜ!
行かなくていいのかよ!」
「え〜…」

心底残念そうな声でブーイングを飛ばし、仕方ない、と言って刹那、

「またね、スパちゃん」
「……っ!!」

今まで詰めなかった差を一気に詰めて、俺を抱きしめるハスタ。
捕らわれた俺は身体が浮き、足が空転する。

いつもどおり逃げるのに失敗した俺は、すきだよ、と耳元で小さく呟かれて。
同性に言われる嫌悪感と、早く逃げだしたい気持ちで一杯になる。

俺は好きじゃねえってば!
イリアみたいにからかうやつが居て困ってんだぞ!?

「離せ、このバカ!!」

どす、とヤツの腹部を腕で強く攻撃すれば、コイツは演技ぶった声で悲鳴を上げて。
力の弛んだ隙に脱出して逃げ去る。

廊下を走る俺の耳に、本鈴が鳴り響いた。





再録 2011.01.29