3月14日。
私は困っていました。





「マリアージュー、入っていいか」
「あ、スパーダ…
うん、いいよ」

ギルドの自室。
昼食も終わってみんなが依頼を見に行く時間に、突然スパーダが部屋に来た。

私の了解の声に扉が開き、緑の彼が姿を現す。

「これから退治の依頼に行くんだけどよー
…って、何やってんだお前」

言い終わらず、私の周りに目をやるスパーダ。

私が、朝の依頼や宅配で届いたホワイトデーの贈り物で埋まっているからだ。
あはは…と短く笑う。

「お前…1ヶ月前に俺に言った言葉言ってやろうか」
「遠慮します」

スパーダへのは好意だが、私のはただの感謝だろう。
(※鈍い)

しかし随分と集まってしまって困っている。

「で、お前どーすんだ」
「依頼?」
「違う、コレ
見たところ殆ど食べ物じゃねえか」

ざっと見て約九割が食べ物。
しかも甘味物。

「食べるのか?」
「いや、困ってるとこ
私甘い物苦手だから…よくてひとつずつしか」

どんだけダメなんだよ、と小さく笑われ、ぶー、と拗ねる。
だって苦手なんだもの!

「捨てれば?」
「嫌よ。
私が残飯嫌うの知ってるでしょ」
「食材は大切に、ね
お前毎年どうやってんだよ」
「去年は少なかったから…
ルビアと一緒に」

2人がかりで食べていた。
今年はルビアだけじゃ足らないかなあ…

「じゃ、全部援助機関に回そうぜ。役にたつだろ」

どうしようかな、と考えていたところでこの提案。
私は「え?」と聞き返すが、直後口に閉塞感。

「………!?」

それがキスだと気付くのにあまりかからず、頬が一気に熱を持つ。
焦って押し返そうとするがあちらの方が力が強く、後頭部をおさえられる始末。

息がしづらくて口を開けば、狙っていたように舌が入り込む。

ま、待って
確信犯だ!

「ん……っ」

それと同時に何かが入り込んで、コロコロと口の中で転がる。
もしかしなくても、

(飴……?)

「マリアージュー、採掘の依頼受けたんだけ…ど……」
「!!」

開いた扉のむこうから、高めの少女の声。
ひょこっと顔を覗かせたルビアが、この光景に固まった。

それに気付いたらしいスパーダは口を離すが、絡んだ銀糸が舌を繋いで、切れた。
逆効果だ。

「お…お邪魔しました!」
「待…っ、ルビア!!」

飴で上手く喋れず、勘違いした率100%のルビアが走り去ってゆく。
恋愛と噂話大好きな彼女だ、このままでは言いふらされてしまう。

追おうとしたところで腕をつかまれた。

「待てよ」
「何よ、ルビアが逃げ…」

追うから離してよと言う前に、そのまま引かれて彼の腕の中に収まる。

もう私の頭は大パニックだ。

「お前のホワイトデーはその飴だけだからな」

いいな?と耳元で呟かれ、早く離してほしい一心でこくこくと頷く。

それを見て彼はいたずらっぽく笑い、行けよと促す。
私はスパーダから離れるためと、ルビアを追うためにその場を走り去った。

「さて。
勝手に片付けちまうか」

私が帰るころには贈り物はもう無い。





..ひとつでいい

(マリアージュがスパーダとラブラブだったなんて!)
(ち、違うわよ!
あれは、)
(照れなくていいのよ、もうッ!)

製作 2009.03.14
再録 2011.01.29