ある街に来ると、その人は暴走を始める。






あなたの隣







「マリアージュ〜」

ギィ、と音をたててアニスが扉を開けて部屋に入ってきた。その表情は今さっきまでアルビオールに乗っていた心労からか、どこか疲れてみえる。
…いや、多分いつものやつだろうけど。

へとへとと力なくというか寧ろ疲れ果てたと言わんがばかりにこちらへ寄って来て、私のベッドへ倒れ込んだ。

「ガイが暴走したぁ〜」
「また?」

というか、やっぱり。

よくネタが尽きないね、と言うと、同じことでも言ってるんじゃないの、と返ってくる。

彼…ガイの暴走は言うまでもなく、音機関の語りである。興味のないアニスやルークにはただのくだらない話でしかないのだ。

…多分アニスが抜け出せたなら今日引っかかったのはルークだね。

「お願いマリアージュ、どうにかして」

どうにかしてって言われても…彼は止まることを知らないし、無理矢理止めるとヘコむ。

かと言ってルークをこのまま放っておくと、明日悲惨なことになっているだろう。この前は無理矢理回線を繋ぎっぱなしにしてアッシュに愚痴っていたらしい。

とにかく、アニスにはちょっと時間をもらおうかな。

「まあ、3時間あったら止まるから待ってて♪」
「それ止まるじゃなくて終わるじゃ…」
「いいのいいの♪」





「…でだな、創世歴時代には」

あぁ、熱く語ってる彼を発見しました。
ルークがガイに向いたまま気絶したかのように固まっている。暇さかつまらなさが度を越えてまたどうにかなってしまったのか。なんか見ていると凄く痛々しいというか哀れというか。

私は早足にガイに歩み寄り、声を掛ける。

「ガーイ」
「ん?どうしたマリ」

一旦音機関について語るのをやめ、こちらに向くガイ。やはり好きなことを話すと楽しいのか、表情はいつもに増して明るい。ただでさえ素敵な笑顔が更に素敵になっている。
あぁ…空気まで清々しいよガイ。

その向こうではルークが「助かった…」みたいな顔をしてこっちを見ている。(なんとか意識を取り戻したようだ)

ガイに「ここに居るって聞いたから」と言い、ルークにもう行っていいよとアイコンタクトをする。すると両手を合わせて有難うと示すルーク。そしてそのまま立ち去る。

私はルークの居た場所にさりげなく座り、ガイに意識させないように話を促した。

「ね、ガイ。音機関のこと話してたんでしょ?」
「そうだよ。創世歴時代にどんな風にあったかとかな」
「私も聞きたいv最初から話して?」
「あぁ」

無邪気に笑うガイの表情が輝いてみえる。音機関に興味がなかった私を虜にするくらい。

そのままアニスに宣言した通り、3時間丸々2人で話していた。





「マリアージュって物好き?」
「なんでよ」

寝る前に同室のアニスがそう言ってきた。部屋は暗い。

「だって最初は音機関に興味なかったんでしょ?ガイに合わせて好きになるとか物好きにしか見えない」
「う、侮辱だ」

たしかに興味はなかったけど、合わせて好きになったというよりガイの話で好きになったんだ、と主張するも、アニスはからかうばかり。
“物好き”だなんて、ガイへの侮辱だ!

そんなだからアニスが寝ても私が(苛々して)寝付けなくて。もうっ、枕元に立ってやる。
私は一言二言、ジェイドに関する単語を言ってから部屋を出た。
どこいくかな。ロビーにでも行こうか。





「あ、ガイ」
「ん…まだ起きてたのかマリ」
「うん」

そういうガイも起きてるんだねと返し、隣に座る。
女性恐怖症のガイだけど、何故か音機関友達になったら抗体(?)ができたらしく、近くに居ても大丈夫だったりする。恐怖症よりマニアが勝つもんなんだなあとか思った瞬間。

「で、何しにここに来たんだい?」
「アニスがからかうから寝付けなくて」

ま、枕元でジェイドの話してやってから来たから今頃魘されてるよ、と言ったら、ガイは苦笑いを浮かべた。

爽やかだなぁ…と思いながらじーっとガイを見ていれば、にっと何か企んでいるような顔をし、

「てっきり俺に会いに来たのかと思ったよ…お嬢さん?」

と、多分乙女なら誰でも落とせるナイスなキザセリフを言い、私の手の甲を手にとってキスした。
私はどこぞの貴族ですか伯爵様…//

私が顔を赤らめて「…恥ずかし…」と言うと、彼はまた笑う。

その笑顔。
反則です。





製作
再録 2011.01.29