僕の望みは、心を抉りながら成就した。





想いはそらへかえして
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Se non si avvera






僕は空を見ていた。
暗く、黒く、
どこまでも澄み切った夜空。
太陽に背を向けたこの星は、暗さもスタンスも僕と同一視できそうだ。笑えない。

…僕の想い人に、恋人ができた。
その相手を僕は見ているし、デマではないとわかっている。
それが何より、つらく感じられて。

太陽という想い人に、背を向けた僕の心はずっと暗い。


(わかってた、のに…な…)


僕はあなたの中で、知人以上の存在には永久になれないと。
ぼんやり、わかってた。

それに僕は
あなたが僕を好いてくれた時だけ応えるつもりだった。
自分から言えないのは否めないけれど、それ以上に
あなたの自由意思を大切にしたかった。

笑顔でいられる場所があるのなら、
それが僕でなくてもいいと思ったから。

小綺麗な戯れ言みたいな思想だけれど、
それでも僕は、好きになったあなたの幸せをなによりも優先したかったから。


(…予想は、外れなかった)


あなたに恋人ができて。
予想も願いも叶ったというのに、僕の心は激しく抉られた。

何故だろう?

僕にむけられない笑顔と優しさを、他の人にむけている姿を見たらすごく苦しくなった。

笑っているのに。
嬉しそうなのに。

僕はそれを祝うことも、応援することも、何ひとつ出来なかった。

ただ、激しい眩暈と吐き気がして、逃げ帰っただけ。
あなたはそれに気付いていない。


(………つらい…)


僕の覚悟が甘かったのだろうか。
それとも、後悔しているのだろうか。
ただ、自分に問いかける。

会いたくなくて、
何をするにも気力がわかない。
起きていたらつらいから、夢の中へ逃げる。


(……僕は…どうしたらよかったの…?)


あなたの幸せを願ったのは、
自己犠牲でも自己卑下でもない、本当の望みだった。

なのにこんなに苦しい。

あなたに好きになって欲しかったのだろうか。


(わがままだ…)


僕は自分から何もしなかったのに。

…残念なことに実兄を含み、
他人を信用することが全くできない僕にとって
あなたは唯一信じることができた。

僕の心が安心して帰属できるのが、あなただけだった。

故に、怖かった。

他人の反応を受けずに育った僕は、何がよくて何が悪いのかわからない。

悪いものをあなたに向けてしまう不安。
よいものが何かわからない不安。

あなたの重荷になることが、
なによりも怖かった。

でも…


(あなたをこんなに大切に想ってつらくなるなんて)


未練がましく傷付いた僕は、努力しなかった結果も怖かった。

あなたに寄りかからないようにする努力はしても、
あなたに気持ちを伝える努力をしなかった。

こんなに、好きなのに。

愚かしく、体調を大いに崩してしまうほど好きなのに。

バカみたいに、まだあなたに恋情を抱いているのに…


(もう、あなたが好きだと表現できないの?)


僕に希望をくれたあなたに、その想いを伝えることも。

ただ笑っているしかないの?

でもあなたはやさしいから
そんな僕に気付いたら、きっと悲しんでしまうのだろうね。


(それは嫌だ…)


僕の気持ちを抑制するという代償では、あなたは笑ってくれはしない。

割り込むのではなく
諦めるのでもなく
好きという感情をくれたあなたの友としていられるように…

なにか、しないといけないらしい。


(………まだ…無理…かな…)


好きだよ、と呟いた声は、
恋情と共にそらにかえっていった。





2010.02.06