ぐぅ。

「………。」

目の前に転がっている、見慣れた人物。それはごろんと寝転がり、横向きに眠っている。

今日はミモザ先輩に半ば強制的にピクニックへ連れていかれ、イオス達との戦闘で疲れたのはわかる。帰ってすぐに「腹減ったー」と言って、夕飯をガツガツ食べて満腹なのもわかる。食後は体が暖まって眠いものだ。

いやそれは別に問題視していないのだが。

「……………。」

なぜこの年で体を丸めて寝ているのかがわからない。しかもかなり無防備だ。

というか、微妙だ。いくらなんでも丸まりすぎである。

しかし何故微妙だという感想を持ちながら起こさないかというと。寝顔に見入っているのに他ならない。

あどけない寝顔。会ったばかりの頃は警戒して寝ていなかったことがあったが、そんなものとは真逆。
たまに気配を察して起きることはあるらしいが、僕がどれだけ近寄っても彼は起きない。
それは極端で、アメルやレシィでも起きてしまうと言うほどなのだが…何故か僕の場合は起きない。

信頼されている、ということなのだろうか。それともただ慣れてしまっているだけなのだろうか。
確認するかのように、小声で彼に話しかけた。


「………マグナ」
「ぐぅ…」

起きる気配全くなし。
まあこの程度で起きるなら、毎朝あんなには苦労しないのだ。
嘆息し、寝ているマグナの横へ座る。

「…中身は随分変わったのに、変わらないな…キミは」

さら、と紫電の髪をすいてやる。重量に従ってぱさりと落ちた髪は見届け、僕の指に残った髪には口付けた。

消極的で、派閥に対しては常に諦めを抱いていた君。何も言わずにいたくせに、ささくれることなく真っ直ぐな瞳を持ち続けて。
その瞳で、全てに絶望していた僕に問いかけたんだ。
『諦めたら、希望も掴めないよ』とでも言うかのように。

それは諦めという同じものを見い出し、しかし絶望を抱いていた僕に向けられていた。
ねすも同じなの、と問い掛けるその瞳は、僕とは違うものを見ていたんだ。

次第に惹かれていった。同性に対する想いとして不適切なのは理解していたが、外界に興味がなかった。
君にしか、興味が湧かなくて。

「好きだよ」

そっと口付けひとつ。
それでも、彼は目を覚まさなかった。