ちょきちょき。

髪を切るハサミの音を聞きながら、ぼうっと外を眺める。


ちょきちょき。

ちょきちょき。


「ネスティさんにマグナさん。何をしてるんですか?」

ふ、と背後から声が聞こえた。俺は、その声がアメルのものだと気付き、応える。

「散髪だよー」

ちょきちょき。

そう言っている間も休まず髪を切る音。
振り向こうとしてないあたり、ネスは俺に全部受け答えさせる気なのかも。

「へえ…いいですね、ネスティさんにしてもらえて」

そう言いながら、俺の隣に座るアメル。
視線だけ動かしてアメルを見やると、それに気付いた彼女は微笑んだ。

「アメルも頼む?」

「いえ、そうではなくて、家族にしてもらえていいなぁって」


ちょきちょき。…


手の動きが数瞬止まった。

「なんで?」

「だって、なんか嬉しいじゃないですか」

家族にしてもらえたら嬉しいものなのか。
俺はネスならなんでも嬉しいから、綯い交ぜになってよくわからない。


「アメルは、家族にしてもらってなかったの?」

「はい。知り合いのおばさんが上手かったので、そこで切ってもらってました」

ふうん、と頷くと、アメルは少しはにかんで続けた。

「でも、やっぱり家族にしてもらえるのは羨ましいなあ…」

おばさんが嫌なわけじゃないけど、と付け足して。

「ロッカかリューグに頼んでみたら?」

「それが、意外と不器用なんですよ、2人とも」

不器用じゃあ、ダメなのは一目瞭然だ。

ロッカは器用そうに見えたのになあ…と思っていると、肩をとん、と軽く叩かれた。

「終わったぞ、マグナ」

「うん、ありがとう」

それを聞くや否や、片付けだすネス。

私も手伝いますね、と言って、新聞紙を持って部屋を後にするアメル。

ああ、俺の仕事なくなっちゃった。

ぼうっとするのもなんだし、あたりをキョロキョロと見回すが、片付けるものはない。

目に付くのは、ネスだけ。

「………」



ぎゅう。




「…なんだ」

「ネス、ありがと」

「さっき聞いたぞ?」

「うん。家族にしてもらえると嬉しいんだって」

「そう言っていたな」

「今度俺がネスの髪切っていい?」

「却下だ」

お前も不器用だからな、と言われて。しかも図星なのが痛いところだ。

うー、と唸ると、目尻に涙が浮かんだ。

いじけてやる。

そう思ったところで、ネスが俺の瞼に口付けた。

「でも、お前の髪を切るのは僕だけだからな」

…それを言われるといじけられない。



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ネスとマグナは依存しあってるのが普通だといい。