開口一番、リゼルグは不躾に言った。

「海に行きましょう、マルコ」





「海?」

マルコはメガネがメインのような顔をリゼルグに向け、言葉を繰り返す。

「海」
「海…」
「オウム返しはしなくていいです。
メイデン様を誘って行きましょう」

二度繰り返し同じ言葉を言ったマルコに、リゼルグは笑みを継続したままそう言い放った。

「ふむ。
いつもは拷問で浸かってらっしゃるが、たまには泳いで楽しんでいただくのもいいな」
「長い前ふり口上は頭の中だけにしてください。
行きましょう」

リゼルグの笑みは揺るがない。

「まぁそう急かすな。海は逃げん」
「潮が逃げるんです」

やや微妙な言い合いをしつつ、メイデンのもとへ。



「海…ですか?」

でてきたのは上半身すっぽんぽんのメイデンだった。彼女には羞恥心というものは無いのか?
それより慈悲深いのか。よくわからないところである。

「はい」

そんなメイデンを目の前にして、それがどうしたと言うかのようにリゼルグは堂々と笑みを浮かべている。
こうも変わらない笑顔だと少々不気味である。

「良いですね!私も少し興味はあったのです」
ニコ!と微笑むメイデン。海行きは決定だ。



夏だ!海だ!

ここは無人島だ。


「なぜここに貴様等が居るのだ!!」

マルコはメガネが割れそうな勢いで叫んだ。

「それはこっちのセリフだぜ」

声を発したのは間違いなくホロホロ。
海で水着になってもまだバンダナはしっぱなしな彼。

「麻倉ファミリーめが…」
「失礼な。俺の名字は道だ」
「いや、チームが違うと言ってくれせめて」

ツッコミどころが違うリーダーに右手でツッコミをいれると、髪が変形して突き刺さる。芸で金を稼いでいけるような見事な変形の仕方だ。

「ファミリーといえばファミリーだね
けれど御免被る」

そこには、リゼルグとは違う、自信に満ちた笑みを浮かべるハオが居たりして。

「のんきだね、僕の両親の仇のくせに」
「のんきで結構。僕は葉に会いに来てるだけだから」

リゼルグは不適に不気味に笑い続ける。そんな彼の笑みに隠れた瞳は、余計不気味に光っていた。

「リゼルグ・ダイゼル
貴様こやつが目的で…」
「ヤダなぁマルコ。決めつけはよくないですよ」

彼の瞳が怪しく輝いたときは、ねじ伏せるが吉。



「で、箱入り漬けもの姫と庶民がなんの用だい」

さらりとマルコブチ切れ必至の言葉を吐くハオ様。庶民…というからに、彼は未だ貴族気分なのだろうか。

「漬けもの姫とは何事か!!」

やっぱり期待を裏切らないマルコ。怒り出した。

「親がいない僕は庶民どころか可哀想な孤児さ
というか、持ってるものでわからない?」

持ってるもの。
どうみても水泳バッグ。

「悲観的なのか慢心的なのかわからん孤児の主張だな」
「(無視)今日くらい無礼講に…「貴様は許さん!!今ここで…」

めしょ。(暴力

人のツッコミを流したくせに、話を邪魔されたリゼルグは、人体の急所を突いてマルコをねじ伏る。

そして再びハオに向き直り、言い直した。

「今日くらい無礼講に行こうかと思って」

そこで、地に伏したメガネ(マルコ)は、地を掃ったような声で言う。

「リ…リゼルグ、貴様…ハオが居ないようなところを選…」
「運が悪かったんですねぇ」

この期におよんでまだ否定の意を表し続けるリゼルグ。
その二人を見比べながら、ハオ達は各々に意見を述べる。

「ふぅん。まぁ不意打ちなんて意味無いからいいけど」
「俺はメガネが五月蝿いから嫌だが」
「無礼講」
「拒否反応に無礼講もクソもあるか」
「まぁいいじゃない蓮くん。マルコ弱いから」

仮にも上司のマルコにそんなことを言ってはいけない。


「良いではありませんかマルコ
大勢の方が楽しいですよ♪」

今まで姿を見せなかったメイデン登場。どうやらお着替えをしていたらしい。

そんな彼女は視界にマルコが居ないのに数秒遅れて気づき、下を見やる。

「…あらマルコ…
砂布団でもやっているのですか?」

違います。

「まぁいいじゃない。
さ、泳ぎましょうメイデン様」

マルコの許可なく決定した。



「か…カニです!!横歩きです…!」
「あまり近付くと挟まれますから危ないですよ」

あはは、と笑いながらメイデンを見ているリゼルグ。普通ならマルコが駆け寄ってくるのだろうが、彼は邪魔なので砂浜に居る。

「リゼルグ、お魚さんがたくさんいますよ」
「小魚が多いでしょう。ここは綺麗ですからね
あ、そうそう、砂浜で透明なな未確認物体を見つけたら逃げてください」
「何故です?」
「クラゲだからです。間違ってもあんなことしちゃいけませんよ」

リゼルグが指差す先にはホロホロ。ホロホロは木の枝で物体をつついていた。

「作者はそれを見て逃げたらしいから」

バラすな。

「おーい、スイカ割りせんかー?」

砂浜から葉が呼びかける。
それにメイデンは目を大きく見開き、

「…スイカ…割り?」

聞いたことはあるような…はてなんだったかしら、みたいな表情を浮かべていた。

「スイカ丸ごとを棒かなにかで割るんですよ。
目隠しして力任せに。」

目隠しはするが力任せにというルールは無い。

「や…やってみたいです」

箱入りお嬢様全開。目は数多の星が凝縮されたかのようにかなり凄い輝きを放っていた。

「じゃあ戻りましょうか」

そして二人は砂浜へ。



「まず俺がするなっ♪」

そういい、ホロホロは棒を少しばかり振り回した。
メイデンにルールを教える係みたいなもんで。

「まずは適当にスイカの位置がわからないようにする!」
「はい!」
「んで目隠し!」

そういいつつ、持参したタオルみたいなものを目隠しに使う。

「はい!!」


メイデンは一々マメに返事をする。意気込みまくりだ。

「んで…蓮、指示頼む!」

指示する役を蓮にする。蓮は仕方ない奴だ、と諦めているのか、素直に応じる。

「ふん…
右に163℃」
「わかるかッ!」
「ふ、冗談だ。
右」

くっそー、とぶつくさいいながらも右へ行ってみるホロホロ。

「少し行き過ぎだ。二歩ほど左」
「二歩…っと」

普段の歩幅からいけば二歩も大した幅なのだが、今は目隠しをしている。故に、慎重に歩かねばならないのであまり幅がない。
その“少し”左に行ったホロホロは訊ねる。

「真っ直ぐか??」
「いや…」

どういうべきか、左に行ったときに少し方向が狂ってしまっている。

「右肩方向、お前からみて右前だ」

そう教えるのはハオ。メイデンはびっくりしたのか、ハオを凝視する。

「別に口をはさんでもいいんだよ」

にっこりと綺麗に笑みを浮かべる。リゼルグが(真偽は定かではなく)言った無礼講に一番準じているのはハオか?

「はいっ!」

メイデンもニコ!と笑う。普段なさそうな光景なだけ、貴重な一瞬。

「んで、どこだ?」
「二歩進め」
「二歩二歩っと」
「もうちょい左…あ、向きすぎ」
「三歩は多いかしら?少しずつ進みなさい」
「あ、そのあたりだよホロホロくん」

やっとスイカまでたどりついた!さぁ割るぞ…と意気込むが、

つまずいた。

「何ホローーッ!!?」

ホロホロはつまずき、倒れたついでにスイカを頭で強打。見事スイカは割れた。

「…ッ」

涙目で悶絶するホロホロはとても痛々しかった。

「今、なにもないとこでこけたね」
「どうしたんだろうね」
「ホ…ホロホロさん大丈夫ですか?」

それぞれ心配したり状況を見たり笑ったり(笑ってるのはリゼルグのみ)している。

「一瞬O・Sが見えたが?」
「スイカを入れた棺みたいな形のね?あれが原因なのは確実ね」
「誰がやったんか…おい、ホロホロ大丈夫か?」

犯人は皆さんお好きなキャラで。動機まで是非お考えになってください。

ホロホロは安全そうなところで休むことになった。



「二番、リゼルグー」

にっこりと微笑みつつ、片手に棒と目隠し布。
ハオはそれを見てぼそりと呟いた。

「曲芸大会じゃないんだから」
「うるさいよ」

にっこりと微笑むリゼルグ。この時点まで、彼は一度でも笑顔を崩しただろうか?ある意味仮装大会だ。

「よーし。葉くんが主に教えてね」
「うぃ」

きゅっ、と目隠しをする。

「犯罪者みたいだね」
「犯罪者に言われたくないよ」
「二人共一応犯罪者だろうが」

ことごとく悪態をつくハオ。言い返しは蓮がふさぐ。

「犯罪に一応もクソもあるわけないでしょ」

ごもっとも。

「…もういいかぁ?」

少し間を置いて、葉が訊ねる。それに気付き、リゼルグはそのまま「いいよ」と答える。





「はい、メイデン様」

八分の一のスイカ三等分したようなものをのせた皿をコトリと置く。メイデンはにっこりと微笑んで、「ありがとうございます」と応える。
横では葉がアンナに皿を渡している。

「はい、マルコ」

今回登場の少なかった彼。スイカをしげしげと見つめている。

「はい、ハオの」

ごとり。
ハオの前に置かれた皿は、木のテーブルから放たれる音を大いに濁らせた。
明らかに割られても切られてもいないスイカ丸ごとだった。

「…」

ハオはそれを細目で直視。三秒くらい見た後、リゼルグに言葉を投げる。

「なァに?この丸い物体。僕は野生生物じゃないんだけど」
「やだなぁ。お供え物だよ」

ふふふ、と笑いつつ眉を八の字にしているが、イタズラオーラは隠せない。

「なんで供えてんだよ…」
「綺麗なお顔に過ぎた自信をお持ちな貴族様がこんな俗なもの食べるのかなぁと思って」
「霊じゃないんだから…」
「“メイデン様”はどうなるのだろうな?」
「っていうか言う人物が逆じゃないの?」
「逆じゃないよ」
「いや逆だろ」
「ぶつよ?」

そこで隣のほうで話をしていたメイデンが言い争いに気づき、あわあわと周りを見渡す。
何に熱中していたのかは知らないが、スイカがごとりと音をたてた時点で気付くべきだろう。

「やだなぁ兄弟そろって。集団イジメ?」

いつの時代でも(?)イジメられっ子なボク…なんて被害妄想中のリゼルグ。
リゼルグの被害妄想はあくまで妄想。

と、直後。

「(争っては)いけませんリゼルグ!」

ばきょっ!

リゼルグの脳天に(ハオの皿にのってた)スイカがもろに直撃<ストライク>。

一同唖然。
時さえも氷結する。

かなり長い沈黙が横たわる。しかし誰も動かない。
メイデンはそれに耐えれなくなったのか、一言呟いた。

「え…、えっと…
…ハ、ハオ、スイカが割れましたよ、どうぞ」

言ってることが微妙に現実逃避気味。つーか頭で割ったものを食えというのか。
しかしハオは普通に受け取る。

「これじゃホロホロのと大差ないな」

そういう問題でもありません。

ハオが喋った後、ようやくリゼルグが口を開く。

「スイカを凶器にするなんて凄いですね」

さわやかあぁぁな笑み。爽やか過ぎて気味が悪い。
というか、褒めることではない。褒めてるつもりは無いだろうが。

メイデンは顔を赤くして自分のスイカの下へと帰っていた。


…そして夕暮れ。砂浜にみんなが集まっていた。

「ヨウ・アサクラ並びに皆さん、今日はとても楽しかったですわ」

ニコニコと楽しげに笑いながら言うメイデン。
隣には例のごとくやはり笑いの仮面を顔に貼り付けたリゼルグ。そしてマルコ。

「いんや、こっちも楽しかったんよ」

葉は笑ってみせる。

「スイカの件はは楽しかったよ。発想豊かで良いね」

ハオがS.O.Fの上からそういうと、メイデンはほのかに顔を赤らめた。
ホロホロは腕を組み、笑いながら

「スイカが割れなかったらリゼルグを使えってか?」

という。もちろんリゼルグは笑い顔で睨んでいる。
彼は最後まで黒い笑顔を絶やさなかった。

「では皆さん、失礼しますね」



そして船の中。

「リゼルグ、スイカはなぜ黒と緑のしましまなのでしょう?」

「さあ…?
ボクはそれより、なんで中が赤いのか気になります」


まだまだ年の足りてない二人でした。





そのころの葉たちの宿。

「葉ーッ!花火しようぜっ!」

次なるイベントが始まろうとしていた。


終わり。






アトガキ

なんとも微妙な終わり方になってしまいました…;

真犯人や感想などはメールにてw

製作 2005.08.26
移動 2006.07.22
再録 2011.01.23