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のけ者。
私を表現するにはその言葉がぴったりだろう。
私は秩序にも混沌にも属していない。記憶もほとんどない。戦う術は持っていた。だからといって、戦うことに執着があるわけもなく、世界のために戦うなんてそんな意思も持ちあわせていなかった。

望みもなければ意思もない。存在理由さえわからなかった。やはり私はあの人形たちと同じ存在なのだろうか?

「それは 違うよ」

私の隣にいる、優しくてけなげな召喚士の少女は言った。

「あなたは、こうしてわたしと話してるし、わたしの話を聞いてくれる。人形ならそんなことできないよ」

彼女は、戦いで溢れているこの世界でいつも何かを探しているようだった。
時たま、うれしそうに指笛をふいて、でも吹き終わったあとのその表情は寂しい。

彼女の探しものは人なのか物なのか、解らない。前に一度、私も一緒に探そうかと聞いてみたことがあった。

「あなたは、優しいね」

ユウナはそう言った。
まさか、優しいのは貴女だというのに。
そう叫びたかったけれど、彼女があまりにも優しく微笑むものだから私は何も言えなかった。

「きっと大丈夫。必ず会えるって、信じてるから」

彼女の探しものが早く見つかるようにと私は祈った。神にじゃない、彼女が信じているそれに祈り、願った。

それが、私の中にはじめて生まれた小さな意志だった。




「んー、そうじゃないッス。」

何回か戦いが巡った。
私の視線の先には、混沌に属しているというのに明るくて、まるで…太陽みたいな彼がいた。
そう、彼が彼女の探し人。
知っていたわけじゃない、でもそうだと思った。
そして、彼が私の隣で指笛を吹いてみせてから、それは確信に変わる。

「ほら、こう!」

彼の姿が彼女が指笛を吹く姿と重なる。間違いなかった。そして、熱心に私に指笛を教えようとする横顔を見つめて、彼にはほとんど記憶がないのだと思った。

「あんたさ、いっつも俺の顔を見るたび、むすっとした顔するけど…俺なんかした?」

彼は何もしていない。彼は悪くはない。それでもその笑顔をみて歯痒かったのは確かだった。その笑顔を向けるべきは私じゃない。その笑顔を待っているひとが貴方にはいる、と。

また、私の中で意志が生まれた。



一度生まれた意志はだんだんと欲をかき、叶いそうもないことを強く願い、望むようになっていく。

ふたりは何度も私の目の前ですれ違った。
悲しげに、でも希望を棄てない彼女。
何も思い出せず、がむしゃらに父を追う彼。

…私はやはり中途半端な存在だったらしい。
昔より遥かに思いを巡らすようになった私は、自分に残された時間が少ないのだと感じるようになった。

ずっと考えていた。
残された時間で私ができることを。
私が考えていることは、自分勝手な余計な行為でふたりを苦しませる結果になるのではと何度も思った。
でもそれよりも、見ているだけはもう嫌だった。

これは最初で最後。自分の意志で私は行動することを決めた。


私は、驚く彼女の手を引いて駆けた。
私が初めて自ら行動を起こしたからか、或いは私の身体が透けてきているからか。彼女が、手を引く私を呼んでいる。
ふたりしか知り得ない、私の名前を。


この戦いに意味など見出だせずに、のけ者だった私を、見捨てず、否定しないで、そばにいさせてくれた。

神にも世界にも歯向かう行為だとわかっていた。
それでも、
貴女に貴方を逢わせてあげたかった。
貴方に貴女と逢ってほしかった。

私はそのために喚ばれたのかもしれない、と思うほど。

私を見付けたティーダがこちらへ近づいてくる。本来相容れない立場のふたりが、声が届き、触れ合える距離に並ぶまで、あともう少し。ユウナの手を離して私は声を発した。


この世界では叶わない望みかもしれない。
叶わないことを望むのは罪かもしれない。
でも望まずにはいられない。

「私の望みをきいてほしいんだ」

ふたりの隣はあたたかかった。
名前をつけるならば、それはしあわせ。
今ではそれが記憶となって私を構成している。
しあわせを私にくれた
そんなふたりに

「しあわせになってほしい」





神にだって
ふたりにだって
許されなくていい。


光か闇か或いは両方に包まれる私に
ふたりが「名前」と私の名前を呼んで手を伸ばす。
ふたりに対する唯一の望みを白状した私は、
それに微笑んで目を閉じた。





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