小説 | ナノ
彼は強かった。
彼は寡黙だった。
彼は孤独だった。
彼は優しかった。
「クラウド、起きてるの?」
「…ああ」
今は夜中だ。一緒に行動しているセシル、フリオニール、ティーダの4人が体を休めている中でクラウドは見張りのために起きていた。ちらちらと赤く燃える焚き火に照らされた背中がひどく脆く見えてどきりとする。
「あんたは?眠れないのか?」
「うん…」
頷き、クラウドの隣に腰を下ろして膝を抱えた。火に炙られた薪がぱちりとはぜる。
あれからずっと考えてみた。私は何のために戦っているのか。クラウドは私たちに言った。
自分には戦うだけの理由がない、だからこそ無意味にやる戦いは嫌だと。フリオニールは自らの夢のために。ティーダは父親との決着。セシルは兄との決着。皆、戦いの理由はあった。私にも戦う理由はある、と思う。思うと言うのは、自分でもよくわからないのだ。皆のように言葉に出せるほどに確信めいた表現が見つからない。理由にするにはひどく曖昧で表現し難いもやもやとしたもの。けれど
、戦う根拠にはなりうるような存在。
「、クラウド」
「どうした?」
「…私、ずっと考えてたけどさ」
「ああ」
「…よくわかんない、かも」
ごめん。横を振り向けば、構わないと笑ったクラウドと目が合った。その笑みを見てふと何となく思った。
クラウドは、このまま消えてしまうのではないか。
今のクラウドは触れたら壊れてしまいそうなほどに小さく見えた。表面上では何でもなさそうでいる。けれどその内側に、もがいて、苦しくて、叫びそうになる自分を押し殺している。
「クラウド」
不安定に揺れる瞳と目が合った。
「、言ってよ」
苦しいなら。泣きたいなら。叫びたいなら。頼ってよ、私を。
目を見開いたクラウドの澄んだ湖水のような瞳から、一筋の雫が伝った。
ああ、そっか。俯いて静かに涙を流すクラウドの頭を抱き締めながらそう思った。クラウドに頼って欲しかった、それが私の戦う理由なんだと。
強くて、寡黙で、孤独で、優しい彼は、酷く、脆い人だった。
そろそろ君の手を握ってもいいかい
大丈夫。私がついてるから。
20110315.