小説 | ナノ
きみは、しぬな
引き寄せられた右手。やんわりと擽るように触れた温い体温が、離れたのを見て、私はどうしようもなく泣きたくなった。しぬな?は、どの口が。
「コスモスを勝利に導くため」
「… 」
「我々は集い、戦うのだ」
「そんなこと」
洩れた声が酷く掠れていたのに肩を落とす。ああ、せめて無かったことに、出来たらと。目を背けたくなる程に眩しいあんたに焦がれる、この想いを。汚いだろう、分かっているよ。
出来ないよ。誰かに笑われたような気がしたのだけれど、目の前のこの人の顔はまた、いつだって真面目すぎて、溜め息。そうだね、きっと、そうだ。
誰にも云えないことがある。ひっそりと、私の中に隠してあること。
わらった、私。
信じることしかできないと云って瞼を閉じたコスモスに、彼が背を向けて歩き出した瞬間。
笑ったんだよ、私。
この背中に、私は当たり前に着いていけるのだと知って。
剣を握れる躊躇無く敵を斬れる、たったそれだけで、私は彼の傍に居ることが赦されているのだと。前線に出て戦うことの『出来ない』コスモスとは違い、私にはそれが『出来る』のだと。
何て勘違いだったのだと。馬鹿馬鹿しい。光の見えない暗闇。イミテーションを斬って、斬って斬って斬って、その先で漸く気づく。
何が『出来る』だ。馬鹿も休み休み云え。『出来ない』。いや違う。コスモスにはそんなの、いらないだけだった。
残された最後の希望。ああその一言が、どれだけ重苦しい言葉か。死ぬな?は、私はそれに、既に殺されているっていうのに。
(わかってるわ、それくらい)
あ、ああ。そういえば一つだけ、君に嘘を吐いたかも知れない。『わかってる』いいや違う『越えられないと気付いた』本当は、ずっとずーっと。そんなつもり、なかったのだけど。何てこと、私の小さな恋と呼ぶこれは、既に終わっていた。
同じコスモス軍の仲間として。大切に護られていた。そうだね。だから可愛くない言葉ばかり吐いて自分を護っていたのかもしれない。本当に云いたいくだらないたった一言を、隠して。閉じ込めて。自分で云うのも何だが馬鹿だなあ。
「あんたこそ」
そうだね、そうだ。今更無かったことになど出来やしない。だってほら見ろ、こんなにも痛むじゃないか。こんな風に自覚したかったわけじゃないのに。あんたが気紛れに私に温もりを与えたりするからだ。馬鹿。馬鹿。私もか。
忘れようとする程突き付けられる現実、心臓ごと抉るこの想いを、私はどう処理すればいい。コスモス。どう足掻いたって私は彼女に追い付くことすら出来ない。いつだって綺麗なままの貴女に、私はいつだって殺されている。「戦いは此処で終わる」そんなこと。分かってるわ、それくらい。だから。このまま汚いまま終わる私に、そんなことしてほしくなかった。