小説 | ナノ
「なあ、お前って何歳?」

唐突に聞かれて、私は硬直する。そういうことを女性に聞いてはいけないと、彼は習わなかったのだろうか。いや、ストレートなところがヴァンの良いところでもあるんだけど。
別に年齢を聞かれて恥ずかしい年ではないのだけど、なんだか恥ずかしくて他に人が居ないか周囲を見回す。誰も居なかった。みんな出払ってしまっている。

「16歳…だけど」
「そっか。じゃあ俺より年下だな。俺17だし」

声のトーンを落として、ヴァンにだけ聞こえるように言うと、ヴァンは普段と変わらない声の大きさで言った。まあ、いいか。

「じゃあさ、名前」
「うん」
「俺と一緒に行かないか?」
「え?」
「俺、これからちょっと探検してこようと思うんだけど…ほら、今誰も居ないだろ?いくら聖域でも、女の子1人じゃ危ないし」
「あ…うん。じゃあ、行く」

1人で居てもつまらないし。そう言うとヴァンは笑った。ヴァンの笑顔は太陽のようで好きだと思った。



だいぶ聖域から離れてしまった気がする。ラグナだったらもう帰れないだろう。でもヴァンは迷ったりしないから、大丈夫。多分。地図もあるし。

「…あ」

先頭を歩いていたヴァンが急に立ち止まったせいで、私はヴァンの背中に思い切り鼻をぶつけてしまった。思いのほか痛くてしゃがみ込んだ私を、ヴァンが振り返る。私は鼻をおさえながらヴァンを見上げた。

「う……どうしたの?」
「地図、無くしたかも」
「え、」

ヴァンはあまり焦っていない様子で、けろりと言った。対する私は、焦っている。もう日も暮れてきた。このまま道もわからずのんびり歩いていると、夜までに聖域に帰れなくなってしまう。出来ないこともないが、なるべくなら野宿は避けたい。

「どうしよう」
「まあ、大丈夫だろ。なんとかなるって」

焦る私に、ラグナみたいなことを言いながら、ヴァンは来た道を引き返し始めた。色々納得いかないけど、私にはどうしようもないので、大人しく着いて行くことにした。



どれだけ歩いたろう。もうすっかり日も暮れて、辺りは暗くなっている。未だ聖域にはつかない。歩き通したせいで、なんだか疲れて眠くなってきてしまった。ふらふらと歩いていると、ヴァンとの距離がどんどん離れていく。やっぱりヴァンは男の子だ。体力も、歩幅も、私とは全く違う。
眠くて眠くて、とうとう大きな欠伸をすると、ヴァンがこちらを振り返った。大口開けて欠伸しているところを見られるなんて、一生の不覚…!

「眠い?」
「…へーき」
「嘘つけ。眠いんだろ」
「うーん…」
「このまま歩く?それとも野宿する?」

本当なら野宿は避けたい。避けたい、けど、眠い。でも、

「眠くないよ。平気。そんなことより早く帰ろう。みんな心配してるよ、きっと」

みんな心配してる。迷惑をかけちゃいけない。ヴァンだって、早く帰りたいはずだ。休まなくても平気なくらいの体力が彼にはある。

「俺はさ、」
「…うん?」
「俺はみんなのことより、お前の方が心配。お前、さっきからずっとふらふら歩いてただろ。ちゃんと見てるんだぞ」

ヴァンが真剣な顔をして言った。かっこいいなあ、と的外れなことをぼんやり思った。
ヴァンは優しい。その優しさに、甘えてしまってもいいのだろうか。

「お前、俺より年下なんだから、俺に遠慮なんてするなよ」
「年下って言ったって、1つしか違わないよ」
「それでも、年下であることに変わりはないだろ」
「そう、だね」
「だからさ、我慢しないで、眠いなら眠いって言えばいいし、疲れたなら疲れたって言えばいいんだ。そうしたら休憩でも、野宿でも、ちゃんとするから」
「……ありがとう」
「じゃあ、もっかい聞くけど…眠い?疲れた?」
「うん。だから少し、休んでも良い?」
「ああ、当たり前だろ」

頷いたヴァンと2人、木の下に腰を降ろす。そのまま、だんだんとうつらうつらして、私の意識は夢の中へ引きずり込まれていった。意識が無くなる直前、ヴァンが手を握ってくれたような気がした。


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