小説 | ナノ
彼女は綺麗だ。
ただ、それだけだった。
簡単に口に出来てしまうような言葉では足りないくらい、本当に綺麗なのだ。
今までにこんなに綺麗な女の子を俺は見たことがあったのだろうか。
いや例え見たことがあったとしても、この子の前では無意味に等しいのかも知れない。

「あのっ、」

突然出現した彼女に驚いた俺は、後ろに引き下がった。
…心臓に悪い。
俺の顔は普通だろうか?

「フリオ、さん?」
「ど、どうした…名前」
「私が話しかけてるのに反応しないじゃないですか」
「…すまん」

すっかり自分の世界に入り込んでしまっていたので全く気づかなかった。
心配そうに見つめてくる彼女の瞳に吸い込まれそうだ。
また意識が違う世界へと飛び立とうとした時に彼女が口を開く。

「私は戦いは嫌いです」
「それはみんな一緒だろ」
「嫌いなので絶対しません。だけどみなさんは戦っている」
「…名前、」
「自分のために相手を傷つけるんですか?確かに自分を守る防衛手段なのかもしれないですけど、それは違うと思うんです」

言葉を、失った。
俺たちは秩序の神コスモスの召喚のもと、与えられた運命に立ち向かっている。
当然、犠牲も必要不可欠なものだ。
目の前に立ちふさがる敵は消し去ってきた。

「どうして…争いが起こるのでしょうか?私には、分かりません」
「だけどな、」
「”だけど”じゃありません!おかしいでしょう?」
「…名前の言ってることは間違いじゃない。だけど、これは”終わらせる”んだ」
「そのために…戦う、でしょう?傷つくなんて見たくない…!」
「俺たちは未来のため…夢のために戦ってるんだ」

自分の主張を思いのままに俺にぶつけてきた彼女は、悲しい瞳をする。
肩を震わせ、唇を噛みしめている。
そんな様子を見ていられるはずもなく、ゆっくりと抱き寄せ、腕の中に閉じ込めた。

「名前は心配しなくていいんだ」
「どうして、」
「俺が…守るから」

遂に泣き出してしまった彼女をぎゅ、と抱きしめる。
綺麗な理由がやっと分かった…彼女は穢れてない、汚れてない、澄んだ心の持ち主であるからだ。

「フリオさんの夢は…きっとフリオさんみたいなんでしょうね」
「意味がよく分からないぞ」
「…お願いだから、無理、は止めてくださいね」
「大丈夫だ」
「私も夢を見ようと思います」
「ああ、それがいい。名前の夢、いつか聞かせてくれ」

はい、と笑って答えた彼女はやっぱり綺麗だと思った。





夢の世界はきみのよう
(きみと同じ夢を見てもいいかな?)




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