小説 | ナノ

目の前が真っ白になって強く目を瞑ったら何とも言えない浮遊感に襲われた。強く瞑りすぎた目を無理矢理こじ開けると、ぼやけた風景が広がり、数回瞬きを繰り返してはっきりと見えた景色は私の知らない場所だった。誰もいない。あるのは小さな輝きがいくつも散りばめられた紫色の空間。お腹が捩れるようで、幸せや思い出も、なにもかもを奪われるような感覚がして、絶望的で苦しかった。


死が怖いのは誰かが生きているから。自分だけ死にたくない、人との関わりが途絶えたくない、まだみんなと一緒に居たかった、そう思ってしまうから。全ての滅亡がくるなら、死への恐怖はなくなるから、死んでも良いと思った。人も、住む街も、何もかもが消えて、周りに何も無くなってしまえば、自分の望みも無くなると思った。つまり周りに何かがあるからこそ生きることへの未練が出来てしまうのだ。



この世界に来てから、毎日毎日同じ事の繰り返し。自分の世界の記憶はないけど、きっと平和な世界だったと思う。自分の世界に居たなら、やりたい事は数え切れない程あっただろう、それができない戦うだけのこの世界が憎い。記憶はないのに早く帰りたい。昨日と同じように過ごした今日でも、過ぎてしまった時は繰り返せない。ただ同じ敵と繰り返し戦って戦って戦いまくっても、何もなく過ごしていく日々はどうしようもなく無駄なのだ。


今私は、どうして生きているのだろう…


「大丈夫か?」


もう何も考えたくない、考えられない、そんな時、手は差し出された。誰かが闇に溺れる私を助けようとしている。その手は暗闇の中で眩しく輝いて見え、私は無意識に手を伸ばした。強く引かれ、周りが見えた時には全身も心も軽くなった。デジョンに入っただけであんなにも心が闇に堕ちるとは。ここはどこまでも暗く、希望の光が見えない世界だ。


「君は長く此処に居過ぎた」

「ありがとう…ございます」

「希望が見えなくとも、私はこの世界を救うと誓った」


そう言った彼の光はこの世界の何もかもを超越していた。

いなくなりはしない、だから君は消えてはいけない

彼は私を目を瞑りたくなる恥ずかしさと嬉しさでいっぱいにし、生きる意味を与
えてくれた。




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