空契 | ナノ
5.鋼鉄島の昼下がり (8/8)

 
「レオ君は…本当に凄いね」

ゲンさんが楽しそうな表情のままの呟いたその言葉に、俺は首を傾げた。はて、凄いとは? なにが? アイクの攻撃を避けれるトコとか? ……え、地味に凄くない? そう冗談半分で聞くと、当然「違う違う」と笑われる。アイクからは、じと目で見られた。おーい、冗談だってばー。

「レオ君の……その根性、ていうのかな。
そういうものを持ってる上、冷静に指示を出せるし…」

「君は凄いトレーナーになれるんじゃないかな」とゲンさんは笑って言った。俺はその凄いトレーナー、って言い方が何だかおかしくて苦笑する。別にそんなものなる気はねーし。

「大袈裟すぎねー?
俺……かなり適当…つーか思い付きで指示出してたし」

用意してた作戦を、なんとなくという予感で口に出しているだけ。こうきたらこう、こうなったらこう、みたいに思うだけ。
それと、元々俺がケンカを多くしてるから………咄嗟の判断とか、得意だ。でも感覚です。
それでいいのか自分と突っ込みたいです。そう考え込んでいた矢先に『それでいいのかよお前』とアイクからの呆れたような突っ込み。あはは、ね。どうしよっか。

「え、
………それって凄い才能じゃない?」
「……そうですかねぇ…?」

「君ならチャンピオンも夢じゃないと思うよ?」
「いや………その可能性は皆無。ホント」

『こんなのがチャンピオンとか世も末だろ』
「うんうん………ってコラアイク」

まぁ、間違っちゃあいないけど。俺は……違う世界の人間だからなぁ。
チャンピオンなんてできるハズねーし。もし仮にチャンピオンになったとしても、一瞬で逃げるわー。仕事とか嫌だし。それに、今のチャンピオン、シロナさんを倒せる自信がない。
………まぁ、そもそも、

「(この世界には……“主人公”が居るからな)」

そいつの方が、チャンピオンに相応しいさ。
でも、確かに、

「バトルも悪くない……かな」

ぽつりと呟き、頬を指先で掻きながら俺はバトルを思い返してみた。迫力が、ゲームなんかとは全く比べ物にならない。心臓がドキドキして、ハラハラしたけど……勝った時は嬉しかった。それに、アイクが俺の指示通りに動いてくれたし。こんなにも嬉しかった。楽しかった。こんな感覚を覚えたのは、かなり久々な気がした。
俺は無言で、アイクを強く抱きしめた。『ぐぇ』と呻いてたけど、まぁ聞こえなかった方向で。
そうだった。バトルが終わったら、言わなくてはならない事があったんだ。
俺はにひっと、小さいのに強い相棒に、笑いかけた。

「アイク、俺の無茶苦茶な指示に従ってくれて、
ありがとな」

ありがとう、俺の相棒。
ニコニコ笑いながらそう告げれば、アイクはぷいっと顔を逸らしてエナジーボールを放ってきやがった。えぇ……感動シーンとか一瞬で朽ちたよ。なんでだ。しまいには擬人化を取って、俺を見下しながら(身長はちょびっとアイクの方が高い)「気色悪ぃ」などとほざきやがったので、そこから喧嘩勃発。

「このヤロツンデレがぁぁああああぁああぁぁあ」
「俺はツンデレじゃねぇっつってんだろうがこの馬鹿
「馬鹿だけ強調すんなぁぁああぁあ」
「じゃあ単細胞」
「じゃあってなに?!」
「そんなもんも分からねぇとはやっぱりお前馬鹿か単細胞だよな馬鹿」
てめぇゴラ

そっから始まる取っ組み合い。それを、どこか楽しそうに眺めているゲンさん。
バトルを観戦していたらしい、野性のムックルなども興味深そうに見詰めていた。
島が楽し気に笑った。…ような気がして………俺はしみじみと思う。

ああ、平和だな、と。
……クレーターができた地面の近くで、言うセリフではないとは思いはするけど。










(さて、)(少し休んだら)(旅立とうか)
(…な? 相棒)


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