空契 | ナノ
5.鋼鉄島の昼下がり (6/8)

  
俺の視線先。ボーンラッシュとのぶつかり合いで負けたアイクは、飛ばされた。
そのままアイクは木にぶつかると思ったが、彼は小さく舌打ちをすると、冷静に着地。木に垂直に足をつけると、衝撃を耐えた。

「、大丈夫か!?」
『…騒ぐな、うるせぇ』

碧い眼で睨み付けて、そう言ってくるアイクの腕に傷。さっきのボーンラッシュが当たったのだろう。
…そもそも、はたくの威力は低い。それでボーンラッシュに対抗するのは無理があったか…。
ルカリオはレベルが高くて、かなり強く育てられてるな、やっぱし。

「(流石、
ゲンさんとルカリオってところか)」

そんなルカリオと真っ正面で戦うのは───正直、キツイ。
…普通ゲームなら、負ける戦い。きっと惨敗だろう。負け戦だ。しかし、

「(これは現実だ)」

ゲームではない。リアルな世界。
俺が判断を間違えれば、アイクは傷付く。痛みは感じる。ルカリオも当然。

「───なぁ、アイク」
『……あ?』

アイクの返事は相変わらず、素っ気ない。……でもなんか…悔しがってる。
俺は笑って尋ねた。

「キミ、勝ちたいか?」
『…』

はぁ? 彼は意味が分からないと、俺に視線を投げ付けてくる。その眼に、愚問だと書かれている。
ねぇ、キミはそれでも勝ちたいの?

『…当然だろ』

はっきりと、言う。
それは、ポケモンの矜持からくる想い。


───負けれたまるか──


───アイクの想いが、脳内に響いた気がして、(まぁ、気のせいだろうけどさ)笑みを深くし、頷いた。

「うん、俺も」

負けたくないよなぁ。そう思う俺も、アイクも、きっと負けず嫌いだ。
トレーナーもポケモンも、戦う気がある。なら、傷付ける覚悟も傷付く覚悟も当然必要。
その覚悟は、俺にもアイクにも、ある。多分。お互い、ずっと前から。
ずっとずっと、昔から。傷付ける覚悟なんて、遥か、昔から、俺らは持っている。そんな予感を抱いた。
───なら、いけるかな。無茶な、俺の賭けでも、いけるかな。

「ルカリオ、波動弾!!」
「―――アイク!」

ゲンが叫んだ必中技の波動弾。さっきの波動弾はどうに流したが、また、同じ事をするのは難しい。
避けられない。だったら、

「影分身!」
「…!」

一瞬の内に、アイクが増えた。影分身。その名の通り、自分の分身を作り出して相手を翻弄する。
まぁ、波動が見えるルカリオには、どれが本物で偽物かぐらい分かるけどな。だから無意味?いいや、他に使い方はあるだろ?
俺は笑う。俺は影分身を盾として使う、なんて無茶苦茶な賭けに出た。
アイクの分身のキモリ達が前へ飛び出すと、調度波動弾がぶつかった。激しい爆風を巻き起こす。同時に無数の分身が消える。波動弾は霧散した。────これぞ、俺の目論見通り。

Q1.けど、もし影分身が実体のない、ただの影だったら?
それだと盾にならない? いや、その場合影分身を作る方法として思い当たるのは、本体が凄まじいスピードで動き回り残像を残すこと。その残像に、質量は僅かでも残っているはずだ。逆に、実態のない影で分身を作るほうが難しいのでは。そう考えて、俺は指示を出したのだ。

根拠などない。全て俺の自論なだけ。でも、成功した。
爆風が生まれ、それに紛れたアイクがいた。

「嫌な音から、種マシンガン!!」

俺の指示に合わせて、再び嫌な音が響き渡り辺りの音を掻き消す。続いて、種マシンガン。煙りに紛れて放たれた、無数の種が真っ直ぐとルカリオに向かった。
彼らから見れば、思ってもみなかった攻撃なのだろう。普通なら、あの波動弾で終わっていた。
残念ながら俺らは普通じゃないんで。

「っ…ルカリオ、避けれるか!?」
『何とか…しますっ!!』

珍しく焦っているような声を残し、ルカリオは種マシンガンをかわす為に後ろへ跳躍した。初撃はかわされた。が、

「まだだ!!」

アイクからの攻撃は止まらない。再び無数の種が向かっていくそれを、ルカリオはボーンラッシュや波動弾で蹴散らす。
隙を見て、波動弾をアイクに投げ付けようとした瞬間、あの嫌な音が頭痛を巻き起こした。こんな時に、だ。ルカリオは、思わず動きを止めてしまい、

「ルカリオっ!!!」主であるゲンの声が響いた。そして、種マシンガンがルカリオに命中したのだ。やっと。

『っ……!』

もろに当たったルカリオはよろめき、膝を付く。始めて彼にダメージを与えられた瞬間だった。思わず俺はガッツボーズを決める。やっと当たった!アイクが一旦種マシンガンを止め、まともにルカリオを見据える。
その体に当たった種から伸びる蔦が絡まっているのを確認すると、アイクは鼻で笑う。作戦、成功だ。

「…?
ルカリオ……何が、」

ゲンが呼びかけるルカリオは膝をついたまま、動かない。時折、呻き声を漏らす。
当たったのは、威力の低い種マシンガンだった。ゲンのルカリオはタフだ。普通なら、ゲームならこんなの無意味。
不意に、ゲンは目を見張った。気付いたらしい。はやいな。
「……なるほどね」と彼は薄い苦笑に似た微笑を浮かべる。そしてその表情のまま、少し悔しそうに呟いた。あの、ルカリオに絡み付く蔦は、

「宿り木の種、か」
「あったりー」

そう。さっきの種マシンガンはただの種マシンガンではない。
宿り木の種を忍ばせたマシンガンである。

「種マシンガンは連続技だからね………」

心底驚いているようなゲンさんに、俺はにっこりとイイ笑顔で微笑んだ。普通の宿り木の種だと、素早いルカリオには当たらない。
種マシンガンなら、避けるのは難しいっしょ?
種マシンガンは、威力が低い。だから、ルカリオもゲンもそれほど警戒してなかったのだろう。
俺の「宿り木の種を種マシンガンに混ぜちまえ」ってゆー指示が聞こえてたら、きっと避けられていたか。

「……そうか、
…だから、嫌な音を」
「ごめいとーう」

ぱちぱちと手を叩く。ゲンさんは流石、頭の回転が速いな。
ゲンさんの答え通り、俺の指示がゲンさんに聞こえたら避けられる。ならば、嫌な音で掻き消してしまおうと俺は単純な答えへとたどり着く。いやぁ、アイク君も直ぐに動いてくれて助かった助かった。

「レオ君は………凄いね」

ゲンさんは感心したように言う。
俺からしたら、ゲンさんが半端ないんだけど……。

「何でもあり、という戦いをしていて………、
うん、凄いね」
「バトルが何でもありだって気付いたのは、
ルカリオがボーンラッシュを防御に使った時ッス」

ボーンラッシュで宿り木の種を弾いた時は、ああ、それもありなんだなって、これはゲームじゃないんだなって、改めて思った。
多少ルールはあるが、今はなんでもありのバトルである。
だから、俺はもっと無理な指示を出す。それこそ、ゲンさんの予想を上回るものでないと、意味はない。

「アイク!!
はたくで森に突き飛ばせ!」
『…!』

「…ルカリオ!」
『はい!』

アイクは素早い、掴み所のない動きでルカリオに接近。そうはさせないとルカリオは波動弾を放つ。それを影分身で前回同様防御してから、エナジーボールを放った。もろにエナジーボールがルカリオに当たる。それでも怯む事はなくはっけいを繰り出すが、アイクは、かわし、た。おお、あの子すげぇ。
そこから、アイクは尻尾でルカリオをはたく。いや、投げた、の方が正しいか。
ルカリオはアイクによって、尾によってフィールドの真横の小さな森に投げ入れられたのだ。咄嗟に体制を立て直し、着地した為、ルカリオに与えたダメージは少なかった。
だが、フィールドを森に移せただけで、いい。


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