空契 | ナノ
5.鋼鉄島の昼下がり (4/8)

 

「───は、い」

ああ、何だ…。ゲンさんには全てお見通し、か。俺は観念して、素直に頷いた。
実は言うと、今日にでもこっそりと、ここを出るつもりだった。アイクもそれでいいって言っていたし。
それに………お別れとか、なんか、嫌だ。へんな気持ちになるし。それに、ほら。その方がカッコイイじゃん? と昨日ドヤ顔しながらアイクに言えば、エナジーボールを食らった。あれ、おかしい。
…黙って行こうとしたのになァ。まさか、ゲンさんにバレていたとは。
でも、俺、何も言ってないし、顔にも出してないし、アイクも他の誰にも話してないし…………………何故バレた?

「ゲンさんって、実はフーディンかなんかだったりします?」
「あははは」

…え、ちょ…否定してくれよ!? ゲンさんだったら有り得るから怖ぇ。
そんな会話をしても、ゲンさんは旅について、否定も肯定もしなかった。ただ、「旅というとさ」と、朝飯を食べ終わった時、彼は笑みを少し不思議そうなそれに変えて、切り出した。
アイクとルカリオも既に食べ終わっていて、擬人化をしてソファーに腰掛けている。因みにアイクが座っている場所はソファーの膝置きだ。どうでもいいけど。2つの視線は俺とゲンに向いている。

「レオ君は……ポケモンジムは回るつもりなのかい?」
「…ジム?」

思わず瞬きを繰り返し、アイクに視線を向ける。彼も無表情で瞬きをして、俺を見る。
……お互い、どうでもよさげな顔だ。

「………あー」

でも、そうか。ジム戦、か。

「考えてなかったなぁ」

視野に入れてなかった………1ミリも。

「? それじゃ…、
旅の目的はジムじゃないの?」

ゲンは俺の旅を、ジムを回る為だと思っていたらしい。この世界ではそれが普通なのだから仕方ない認識か。
10歳になったら、子供でもポケモンを持ってトレーナーになり旅に出れる。
トレーナーが目指すのは、チャンピオンリーグ。四天王を破り、チャンピオンを倒し、自分が新たな王になる。それはトレーナー達の目標でもあり、憧れ。
それを目指す為には、まずジムを回り、バッチを手に入れなければならない────。
この世界の常識である。が、俺は違う。

「俺の旅の目標は、違いますよ」
「因みに何?」
「…神話、ですかね」

ぽつりと言うと、ゲンさんとルカリオが興味深そうに見ていた。
アイクは眉間に皴を寄せたまま、見据えてくる。あのふたりは単純に興味があるみたいだが、アイクはよく分からない。うーん、感情の読みずらいヤツ。心の中で苦笑しながら、彼等が続きを聞きたそうだったので続けた。

「…シンオウって、神話が沢山あるじゃないッスか。
それを調べようと」

これからは嘘やごまかしを交えながら話すことになるだろが、これは本当の話だ。
俺がこの世界に来たのは、きっとカミサマが関わっているのだから。
時と空間を司る神か────、
はたまた、もっと上、か。
そんなことを考えるのは容易い。だが、明確な答えや理由が現れるかと聞かれたら、いいえだ。だから、知りたい。
それと、もしこの元凶に出会えたのなら……聞きたい。

「……俺の、ここにいる意味。理由。必要性…。
それに、マジで殴り飛ばしてぇし……」

「え?」
「あ、いや、こっちの話」

全員、何か言いたげ気だったが、俺はにっこりと笑い、避けるように席を立つ。
悪いけど、言う気はさらさらないんだ。

「んじゃ、
俺とアイク、もうちょっとしたら出る………けど、大丈夫か? アイク?」
「……」

彼は、何も話す気がない俺を見て、溜息をつきながら頷いていた。おいおい。人の顔見て溜息つくなよおーい。
荷造り……と言っても、まとめるまでもない荷物だが、俺は取って来ようと立ち上がり、アイクと共に部屋に戻ろうとした。
その時、突然、突拍子もない事を、ゲンさんは俺に言った。

「俺とバトルしないかい?」

と。
………………はい?
ぴしりと俺の動きが止まった。頬が引き攣る。
…今…無視すれば良かったかなぁ……。なーんか…………ものすんっごくとんでもない単語が聞こえたよ。どうしよう。振り向きたくないなぁ。そう思いながらも、恐る恐る………ゲンさんを振り返り、
思わず目を丸くした。

「俺と、
バトルしないかい?」

ご丁寧に改めて言ってくれた彼の表情は、いつもの笑顔ではなく―――、
真剣で、ポケモントレーナーの顔をしていた。
 

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