4.信頼できる関係 (6/6)
その後、少年、もといアイク君に
「うるせぇ」と一発殴られた俺って本当に不備だと思う。
ゲンさんいわく、ポケモンが人間の姿となる事を、属に“擬人化”と呼ぶらしい。
―――ポケモンは昔、人型をとって、人間と共存していた。
だが、時代が進むにつれ人間は変わってしまい、
ポケモン達は人型をとらなくなった。ポケモンが、人間を信じなくなったから、だとか。
「―――それは…」
アイクに後ろから抱き着いた
(最初は暴れられたけど諦めたらしい)(ちょっとげんなりしてるけど知らん)(さっきのお返しだ)俺はゲンの話を聞いていた。
ゲンの話を聞いている限り、擬人化をする条件は―――、
ゲンは頷く。
「信頼、だよ」
その言葉に、俺はつい笑ってしまった。
と言っても、元々笑みが浮かんでいたから、少しそれが深まっただけだ。
前に座っている不機嫌モード丸出しのアイクには見られなかったが、ルカリオとゲンさんには見られている。だけど、俺のこれに違和感を抱いてしまったのは、ゲンさんだけらしい。
少し、俺の右眼を見つめ、微笑んだまま無言になると、何事もなかったように話を続けた。
「……擬人化をとるのは、傍に……頼れるパートナーが居る事と、
信じるものがある、強い意志があるのが条件。
…アイク君も、つまり、」
「……てめぇが名前で呼ぶな」俺からは確認できなかったアイクの表情は、きっと仏頂面だったのだろう。
ゲンを牽制するような低い声からも、嫌悪感が駄々漏れ。……こんなやつが、信頼、ねぇ……。
ぜってぇありえねぇーと思いつつ、まぁまぁとアイクの頭を撫でてみた。アイク君の肘打ちを喰らった。鳩尾に。ぅおお今のは利いた今のは利いた。
それでもアイクの事は離さなかったが、まさかの強行手段。アイクは原型、つまり、キモリに戻ってしまった。
ショックを受ける俺をスルリとかわし、アイクはそのまま枕元に置いてあるモンスターボールに近付いて…、
「えぇっ!? ちょっまっ」
制止の声も虚しく、彼はモンスターボールの中に入っていった。
ひゅうーと北風が吹く。俺の心は今吹雪いてる……。寒い……家の中なのに……。
なにこの、びしばし感じた嫌悪感に拒絶感。
「……ゲンさん?
これ、どーゆー事ッスか…?」
これ、本当に信頼されてますかね俺。
「まぁまぁ、
照れ隠しかもしれないし」
「重いっすね照れ隠し!」
そんなナイフ張りの鋭さ持つツンデレはいりません。
わんわん布団に包まって泣いてたら擬人化をしたルカリオに、肩をぽんっと叩かれた。ゲンさんからは爽やかな笑い声。さてはゲンさん、楽しんでますねあなた。
「にしても、
レオ…は擬人化を知らなかった……んですか」
ベッドに腰掛けるルカリオの言葉に、ごろりと寝返りを打つ。朱眼の彼を見上げた。
いやぁ、美形だなぁ。
「擬人化………聞いた事はなくはねーけど…、
………まさか本当にあるとは…」
思ってなかった。
「非現実すぎて……なんか頭パンクしてきたぜよ……」
「大丈夫かい? 頭から煙出てるけど」
「こりゃあかん、もうパンクしてたわ」
ついでに言えば、こんなに美形なんて思ってなかった。
畜生美形めっ。ムカついたからルカリオに蹴りを一発。しかし、受け止められ逆に波動弾を打ち込まれた。ぅおおお死ぬぅぅうう。
…へー、擬人化してる時でも技使えるんだー…へー……。
「まぁ、知らなくても無理はないよ」
ルカリオの隣に座り、ゲンは笑う。
…なんで、こんなに爽やかなんだろうと毎度思う。
俺とは違う……けど似てる笑顔だ。
なんだろ…違和感ないくらい完璧にできた笑顔なんだけど……ロボットみたいで逆に違和感?
そこまで、硬すぎることもないんだけど……。
「擬人化は一般では知られてない。
ポケモンとごく一部の人間しか知らないからね」
「…そのごく一部の人間って?」
「うん…例えば君とか。
ポケモンに愛された者だけ、だよ」
愛された者―――。
なんとも実感の湧かない言葉に、俺は無言で瞬きをした。
あの、だから、アイクの態度見て思わないかなぁ……。
すっと己の眼が細くなるのを感じた。
愛。…自分、否、自分達には無縁な言葉である。
けれど、このふたりにはしっくりくるんだ。
「………そういうゲンさんも、っすよね」
「まぁね。
…俺もルカリオに愛されてるかな」
彼はまるで他人のようにさらりと、照れた様子もなく言って、微笑んだ。
いつもの爽やかな笑みではない。
優しい……幸せそうな、微笑み。
誰かに媚びたようなものなんかとは大違いで、ただ、自分の感情を浮かべて見せた。そんな微笑み。
そして、原型に戻って、静かに寄り添う───ルカリオ。
幸せな、緩い空間が広がる。
ゲンとルカリオ。その間には誰も入れないような、空間。
相棒。成る程と思った。
相棒とは、ああいう関係を言うのだ。
信頼できる関係
(きっと俺にはできない)
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