空契 | ナノ
2.夢だと言って (5/5)

ゲンさんいわく、

「ルカリオ、
俺にしか分からないぐらいの波動しか使ってないんだよ」

つまり、

「言葉、
俺なら分かるけど、
君には分からないはずなんだけどな」

らしい。なにそれ凄い。
…あ、だから返事を返したらルカリオ、驚いてたのか。納得。
いいや、嘘だ。納得できない。
んなバナーナと叫びたいほど、俺の脳内は混乱している。
ちょっと待て、意味が分からない。

えーと、とりあえず、

「え、なに言ってるんすか。
俺、ルカリオさんとなんか話してませんよ」

ゲンさん、これ嘘です
ぅおい!!!

苦し紛れのごまかしを発動したら、あっさりルカリオに言い当てられた。
はやい! はやすぎるよルカリオさん!

「何言ってんじゃごらぁああ!!」
『事実なのだから仕方ないだろう』

いやいやいやいや!
てめっ、波動ポケモンとか狼とか勇者とか呼ばれてんだったら、俺の事情ぐらい察してみせろコンチクショー!!」
『勇者って何だ』


映画ネタですが何か。
いや、でもさ。
実際、俺だって知らなかったんだ。
予期せぬ自体にキャパオーバですよ。

「…ルカリオの言葉が分かるのは確かだね」

ゲンさんは確信したように、一人頷いていた。
ああ、これじゃあごまかす事はできないな。
いやだぁ、変なフラグ立った。

「それにルカリオの事も知ってるようだ」
「ああ………ルカリオって珍しいっスよね」

けど、それは“この世界”にだけに言える事だ。
ルカリオが波動ポケモンなんて……“俺が居た世界”の事では常識。
波動は我にあり!!の某映画とかで結構有名になったし。
…それに、俺、レオはポケモンの特性とか詳しい情報、ほとんど把握している。
ポケモン好きは伊達じゃねぇぜ!!ってな。(眼帯仲間ー)

「驚いた。
ポケモンの言葉が分かる人間なんて…」

腕を組んで「本当に実在するんだ」と頷き、ゲンは微かに目を丸くする。
対して、ぴんと来ない俺。首を捻った。
波動ポケモンのルカリオの言葉が分かっただけで、他のポケモンの言葉が分かると判断されたが………はたしてそうなのだろうか。
ポケモンなんて、当然今まで見た事がないし、触れた事もなかった。
だから分からない。
…まぁ、ルカリオがポケモンだから……そういう事になんのかな、多分。

あれ、でも…、

「ゲン、さんは?」

何となく、言葉が伝わってたようだったが。
するとゲンは爽やかに笑って、ルカリオを撫でた。
ルカリオが、気持ちよさそうに目を細めている。あー、絵になるなぁ。

「俺はルカリオの言葉しか分からないよ」
「それは…」

「波動だよ」
「は、波動っスか…」

何か規模が無駄にデカイ。
波動だよと言われても分かる訳もなく、首を捻っているとルカリオが教えてくれた。


『主は元々、波動使いで、
波動ポケモンの我となら意思の疎通、会話ができる』


…………へー。としか言えない。
やっぱり、なんか、分かんねぇ。
そもそも、つい昨日まで平々凡々………ではないけど…………「うわー二次元トリップしてー転生トリップマジ希望ー」なんて言ってたどこにでも居そうな、オンナノコに、それを理解しろという方が酷ではないか。
眼帯してて一人称が俺な時点で、普通ではなさげだけども。自覚はしてるけど、これはもう癖だから気にしたら負け。なににだ。知るか。

未だに実感が沸かない。目の前にポケモンのゲンがいる事も、ルカリオがいる事も。
非現実すぎて逆に冷静な俺は変だろうか。

…………とりあえず………、
ルカリオはあの映画みたいに、テレパシーで話せるワケじゃねぇのか…。
そこは納得しておく。

「(てっきり、テレパシーだと思って話してた)」

色々納得してたら、ゲンが「レオ君はどうして?」と尋ねてきた。
それに、心の底で眉を寄せる。
どうして?どうして、ポケモンの言葉が分かるのか、って?
…さぁ…、

「何でだ?」

「分からないの?」
「ははー」

乾いた笑みを浮かべて心の中で一言吐く。
分かる筈ねぇだろーが、と。
なにこのイラナイ特権。
これのせいで特別扱いとか受けたらどうしてくれんねん。


…色々意味不明な点はあるけど、
うん。
これはきっと……、
自分の身に起きたこれは……俗に言う、トリップだ。

俺はぼんやりと、壁にかけられている鏡に、映る自分を眺めた。
そこに映る自分は、
異質。変。おかしい。

─────肩まである髪が、真っ青なのだ。
深い藍(あお)。深海みたいな藍。

眼帯をしてない方の右眼は、透き通った水色。透明に近いような、色。
薄い、秋晴れの乾いた空のようなその色は、案外綺麗かもしれない。
けど、その変化に確かに嫌悪を抱いた自分がいた。

「(でも、まぁ、
王道だよな)」

ポケモンの言葉が分かるのも、髪や眼の色が変わるのも、
トリップの特権というか…。
ただ、王道じゃないのは“俺”だ。

いやいや、
こんな捻くれた主人公なんて、いて、たまるか。
存在してたまるか、って。

せめて顔も変わってくれればいいのになぁ………って、それは無理か。
そんな都合のいい事を思う俺は、
落ち着いているのか、
ただ単にドライなだけなのか、

それとも―――ただ、異質なだけなのか。

異質すぎる俺、レオは、
人生初のトリップをしたよーです。






(6円あげるから)(お願い誰か)

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