38.On my way home, (6/6)
俺は、夢を視ていた。
親友との、もう叶わない夢だった。
───これが俺がこの世界にやって来ては、毎日視る、夢。
悪夢の、正体で。
「(……あ、れ…………おれ、)」
俺、なにをしていたんだっけ。
引くことのない圧迫感の最中で考える。記憶を辿る。
見えたのは、思い出したのは、鮮血。
「(ああ、アースに、負けて)」
アースに手も足もでなかった。
そして、もう、だめになって、
アイク達が、俺のせいで死ぬって思って、
無茶な賭けに出て、
で、
この抱き締めてくる、震えて、泣いてるんじゃないか、このひとに、助けられ、て、
どくん、震えが、走った。
薄い唇。すっと通った高い鼻。不機嫌そうに寄せられた眉。さらりと眼を覆うほどに伸びたその、灰色の髪。こちらを睨む朱色の眼。20代の、男。
首元から紐に繋がれた、緑色の笛のペンダント。
「(エン……)」
エンが、そこに、いた。
髪は伸びきっていて、色も変わっていたけど、あの声あの主義あの体術あの強さあの考えあの台詞…、
「(エン、だ)」
それがどうして、エンにしか見えなかったのか。エンなのか。エンじゃないのか。
それを確かめるためにあの時、手を伸ばした。
なんで。
届いたとして、俺はどうしたのか。
それがエンだとして、俺はどうするのか。どうしたいのか。
届かないなんて、思いたくなかった。
それは、なんで?それは、どうして?
ああ、だめだと呟く。
なにを思えばいいのか。
なにを考えればいいのか。
なにを、どうすればいいのか。
どうしてだろう。なにも、わからないんだ。
これがフリ、なのか、
拒絶なのか、それすらもわからなくて、
───ただ心は空虚。表情のない顔。
自分がどこに生きていてどこで呼吸をしているのか。
なにもわからなくて、ただ、ただ、与えられた温もりを甘んじて……眼を閉じる。
なにもみたくなくて。
でも瞼の裏には、俺が大嫌いだったあいつの笑みが、
ずっと、焼き付いていたんだ。
On my way home,(一緒に家に帰ろうと歩んだ帰り道の途中で、)
(全てが分かって、全てが解らなくなったんだ)
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