空契 | ナノ
37.激突 (8/8)


    
    



そう言いきった瞬間、悲しみを左眼に浮かべた。
唯一彼に輝く、アクアの瞳を。
それが、俺を見て、そして、眼があって、俺は、その空洞を見てしまった俺はなんて反応をすべきなのか分からなくて、

俺がどんなに酷い顔で、それでも笑っていたかなんて分からなかったが、その隻眼の銀髪の男は、クスリと笑うと───、
視線を俺より向こう側に向ける。
きゅっとその瞳が細まった。

なにかを、見て、



俺も同じように視線を向けた。

煙が立ち込める中、地面に倒れていた黒コートが起き上がろうと体を起こしていた。


その時、だった。


ぱさり、
フードが、取れた。


アースのフードが、今の襲撃に紛れて外れてしまったのだ。
それに気付いているのかいないのか、そいつは額を抑えて、顔を上げた。

「っー……やり、やがったな…」

薄い唇は忌々しそうに歯を見せ、
鼻はすっと通り、
眉は不機嫌そうに寄せられ、

さらりと眼を覆うほどに伸びたその、灰色の髪。

若い、20代の、男。


そして、シャラリと、
音を立てて、そいつの首元から紐に繋がれた、

緑色の笛のペンダント、

が、零れるように、おちてきた。



ドクン、

「(あ、れ……?
なんで、こんなに、おれ、
震えて、…………?)」



そして、

ドクリ、

ギロリと、灰色の髪の隙間から、ドクン
朱の両目が、 ドクン 俺を真っ直ぐと、ドクン、

正面から、睨んだ。

ドクリ、


「 ぇ     ?」



見覚えのある、顔だと、
記憶が叫んだ。

    
   
「…………え……?」



ノイズと、なって、
、記憶、が、さけ、ぶ、




───落ち着けよ。


酷く、優しげな声が、聞こえた、


───落ち着け。
───落ち着いて、周りを、見ろ。


───力任せで、がむしゃらになんてやって、勝てねぇよ。

───勝てやしない。


俺に、それを教えてくれた、彼、


───どんなことにも立ち向かえる強さなんか、
───そんなもん無意味な蛮勇だ。


───勝てる見込みのねぇケンカは買うな。


俺に、世界を、教えて、くれ、た。

ああ、ああ、、
よみ、がえる、

嵐がやってくる。
拐われた、あの日々が、甦る、


───なぁ、見てるか?


波の音、
バイクのエンジン音に紛れた、波の音、夕陽の色、


───綺麗だろ。


かれの、こえ。


───それがお前にとって重みなら、
───思い出、


残酷な、優しさ、

ああ、
思い出し、た、



───忘れてもいいんだぜ。



思い出した。



───ああ、
───いくらでも、溢れるくれぇにさ

───俺が



「───ぁ、」



手を伸ばし、た。

口を開く。
声、声、声、ことば、なま、え、でな、い、

手は、のば、した、


髪色も、眼の色も、
変わってしまっているけれど、


「アース様っ!!」


驚いて俺を見ていた、彼、の前に、陽恵が割り込むようにやってきた。

空色の瞳が、俺をみて、見て、視て、かなしそうに、眼を細め、
その足元から光が円状に広がる。

ふたりが光に溶けていく。


まって、


「ま、って、」


いかないで、
アース、


───人の名前、
───いい加減に覚えたらどうだ?


「    、」

違う、覚えてる。

覚えてるよ、覚えてる、覚えてる覚えてるから、




───ほら、約束。




酷く、残酷で、優しい約束で、
おれを、縛った、
あなた、




「え、ん……」




忘れようとした、忘れていた、忘れていたんだ、思い出さないように、覚えていないように、覚えてることを思い出さないように、気付かないように、みないふりして、零にしたつもりで、消したつもりで、ごまかして、忘れていた、

その名前、




「エン……っ!」



───大丈夫



その声を、残して、消えた、
俺の、大切な、




光は一瞬で消え果てた。
暗闇が支配する、この洞窟に、残されたのは、
俯いて拳を震わす、銀髪の男と、
倒れて動かないままの、手持ち達と、

自分の、笛のペンダントを握る、笑みなんて何処かに消えた、俺のみだった。











   



───なぁなぁなぁなぁ! これー!

───“ユカリ”うるせぇよ。

───“レオ”ひっでぇよ!
───なんか、最近ますます酷くなったよなぁ〜。

───え、そうかな?
───レオ、最近よく笑うようになってきたじゃん!
───ユカリ“みたい”でかわいいよ!

───……“レイ”、はずかしーからそーゆーのやめて……。

───えぇー? レオかわいいよー?

───…………で、ユカリ、なんか用?

───あ! 話逸らしたなぁレオ!
───ふっふっふっーそーゆートコがカワイイよな…………あだだだだイタイイタイイタイレオさんレオさんイタイイタイいてぇーっす!!

───ユカリ、言うことは?

───レオツンデレかわい、いだだだだだだだだだ!?
───いだだだ前よりなんか強くなってないレオあだだだだだだだだ!?


───……馬鹿だな。
───そりゃそうだろ。
───“俺”が、教えてんだからよ。喧嘩。

───えっ、
───“エン”がレオのししょ!?
───あだだだだだだだだだ!?

───ユカリうるさい。


───ねぇ、
───“エン”

───あん? なんだよ、レイ。

───ユカリと持ってきた、それ、なに?

───……これが本題なんだよな。
───はぁ……おい、そこの馬鹿共!

───ふぁーい?

───いや、返事するってどうなんだよそれ…。

───おら、これやる。


───え?
───……笛のペンダント、?


───あ! そうそう!
───それ! 笛のペンダント! いーの見付けたから買ってきたんだぜ〜!
───オーダーメイドってヤツだ!

───おーだーめいど?

───そ!
───ずーとつけれるよーに、錆びないよーにって、
───エンと一緒にな! そういう素材でつくってもらったんだぜ凄いだろ!

───ユカリウザイ。
───おら、色もお前ら好みのにしたからよ。


───あ、本当だ!
───レオのは“お空の色”ね!


───レイのは“オレンジ”だな!


───ユカリのは“黄色”で、


───エンは、
───“緑色”のペンダント、な!



───いいのか?
───これ、もらっちゃって……
───金とか……


───いいんだよ、貰っとけレオ


───そーそー、エンのゆーとーり!



───それはさ、
───俺らの記しなんだから。



───“親友”の、記し。
   


───なにかあったら、それ吹けよ?
───そーすりゃ、ぜってぇ駆け付けてやるよ!


───あ、レイも! あたしも! 助ける!

───え、レイも……?

───なによ! あたしも戦えるもん!


───ぜったい……たすけて、くれるの……?



───ああ、そりゃ、絶対、だ。

───俺が守ってやるよ───レオ───




(夢を視ていたんです)
(昔の、記憶の)(夢を)

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