空契 | ナノ
34.願望 (5/5)

    
    
    


あの一瞬だけ垣間見えた感情は、
俺が恐れている腹に抱えた感情や思念の一部なのか。

そう思ったけど、


「見苦しい所をお見せいたしまして、申し訳ございません」
「いや……それはいいんだけど、」

いや、よくない。本音言えば凄く驚いたし、気になるっていうか……、
突っ込みたいのは山々。だが、眼があったとき、彼がにこりと浮かべた笑みに、なんだかその気力は削がれていく。
……まぁ、いいや…………もう、どうだって……。
どうせ俺は誰がどうなろうと、どうでもいいって思って、だから旅、してるんだよな。
…だから喉に生まれそうになっていた言葉を飲み込んで消化する。

「……名前、本当にシキ、でいいのか?」

と当たり障りない言葉を、確認も兼ねて聞けば、

「はい。
とても気に入りました。嬉しいです」


と、こちらも当たり障りのない返答。嘘はやっぱりそこにはない。
ならば、問題ない。と思う。……うん。
自己解決でまとめるあたり、俺も大分自分本意……いや、分かってたことだけど、今更だけど。

「あー……じゃー……」

ちょっと変な沈黙が走って、その空気を壊した俺も当たり障りのない、笑みを浮かべて手を差し出した。さっき、ふと解かれた手だった。
それを見て怪訝そうにする彼に、言う。

「多分、短い期間かと思うけど、
よろしくな、シキ」

一応、歓迎するよ。……一応な、一応。
すると彼……シキは少し眼を丸くして、それから俺の手を両手で握るのだ。

「未熟者ですが……何卒よろしくお願いいたします」







「かった!!」
「ふふ……癖です」
「うぅん……なんて親なんだ……すげぇミズキさんとそのおにーさん……」
「自慢の家族でございます」

「おおぉ……」


「…………さてと、
そろそろお戻りになりましょう、レオさん」

「…おー……そうだな。そろそろ俺も眠くなってきたー……ふわあ〜……」
「レオさん、欠伸をなさる時はお口を押さえましょう」
「はーい、おかーさんー」
「私は男でございますよ。

…失礼します、レオさん」

「え? ……うおっ!?」
「うおっ、なんてレオさん…貴女は女性なのですから…、……
「俺が一人称俺の時点でもう手遅れだと思うんだけどおかーさん!
じゃなくて! なんで急にオヒメサマ抱っこ!?」
「眠いのでしょう。どうぞ、お眠りくださっても構いませんよ。
それに、レオさん……今素足でいらしてるでしょう? 故にこのような手をとらせていただきました。御無礼をお許しください」

「いや、えぇ、えー…………はぁ……まぁいいや……。

……じゃ、ごめん、ちょっと、寝させてもらうわ」
「ちょっと、ではなくしっかり寝てくださいませ。
まだ日の出まで数時間ございます」

「……おー…………じゃ、日の出に、起こしてくれー。
鍛練、するからさー…」
「鍛練、でございますか」
「んー……しゅーかん……」
「ならば私も御手伝いさせていただきます」
「まじでかー……んー……よろしくー…………ぅ…」


「どうぞ……ゆっくり、御休みください」
「ん…………おやすみ…シキ……」



「はい……、
はい……っ…………ありがとうございます。

……そうですね……私は自由の筈なんです…………はい…………っ…………、


ありがとう、ございます、レオ様…。
いい夢を御覧になられる事を、心より、」












(願っております)

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