33.世界 (5/5)
やめてくれ。
俺には必要ないものなんだ。
なんで、覚えてるんだ。
「───知らねぇ。
こんなの、知らねぇ」
言い聞かせるように呟いて耳を塞ぐ。
「は、馬鹿じゃねぇの」その手を、パルキアが取って今度は俺を見下すようなそんな目付き。
激しい怒りを覚えているのか肩が震えていて、ディアルガの咎める声も聞こえていないように俺だけを睨み下ろしている。手首を握る力は凄まじく、ぼきりとこのまま折れてしまいそうなほど鈍い痛みが絡み付く。
「逃げてるだけのてめぇ如きが! 何も選べねぇって事に気付きやがれ!!」「パルキア、止めろ」「こっちが下手に出てりゃぁ好き勝手言いやがってよぉ……。
てめぇがそれを言える義理かよ!!」「は、」
「“また”てめぇは!
“大切な奴を見殺しにする気なのかよ”!?」ど、くん、
全身の、血が逆流したかのようにざわめき立つ。右眼が見開かれ、無意識の内に震えていた体が、笑みが凍り付いた。
───なに、それ。
「、なんの、ことだ」
知らない。
知らない。
そんなの、知らない。
嘘をつくな。パルキアが腕を握る力を込めた痛みで、遠退いた思考が呼び戻されて、固まる。
神経の束を乱暴に逆撫でされたように、頭が熱くなったのも、感じた。
──それを他人事のように思って、失笑しては、呟く言葉は変わらない。
「───そんなこと、知らない」
そんな記憶は、存在などしない。
そういう事実として伝えると、言葉を失って瞠目するパルキアがそこにいた。
何に対して衝撃を受けているのか、そもそも何に対して憤怒していたのか、なにひとつ分からないまま。
違う。
本当は分かっていた。
だけど、知らないふり。見ぬふり。聞かないふり。分からないふり。
ただ、ただ、憎しみと苛立ちだけが募っていて、力任せに腕を振るってパルキアの手を振りほどく事しかできなかった。
「レオ、さま」「……俺はなにもしねぇ。
世界も、あんたらも、なにも守らねぇ」
守れることなんて、できやしない。
ディアルガの顔なんて見れずに言って、呟く。「もう、いいだろ。消えてくれ」拒絶だ。
全てに対しての拒絶を、感情に任せたまま放てば、あの耳障りなノイズがこの世界を支配した。
歪む歪む世界。
それは俺とディアルガ、パルキアの間に亀裂を生ますと、徐々に広がっていく。
もう、なにも聞きたくない。
なにも知りたくない。
「っもし!
あなた様が元の世界に帰れるとしても……ですか!?」だから、守れって、
そう説得するような声も、聞こえないふりをして、
俺は眼を閉じてまるで呪文のようにその名前を口にした。
他なんてどうでもいいんだと。
言い聞かせるように。
世界
「ユカリ……っ、
……レイ……!」
(他には、なにもいらないし、)(必要ないんだって、)
(無我夢中で叫ぶんだ)
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