空契 | ナノ
3.おれ+キミ (4/6)



「…?
えっと…ボールを渡したのは、野生に帰ってもらう為なんだけど……………」

あ、今キモリの眉間に皺が寄った。
え、なに? なになに? 不機嫌? 不服? 何故に?

「あ。
故郷に帰せ、とか?」
『…………』

あ、眉間の皺が増えた。違うんかいっ。
眉間に皺寄せてぇのはこっちだぞ!

「え、なに? ホント!
黙ってないでなんか言ってくださいっ」

なんか悲しいじゃないか。俺が独り言をしてるみたいで!
俺がそう叫ぶと、キモリは眉間の皺を更に深くして、

『〜〜………』

…今度はわなわなと震え出した。
え、あれ、青筋!?え、怒ってる!?
まさか怒ってます!?
えぇぇえーっ!?発火地点ドコぉおーー!?

『っお前一回死ね』
「は? ――ぅぎゃあ!?」

キモリはその怒鳴り声と共に、緑の弾を放ってきやがりました。
ってぇえええ!!!?エナジーボールぅぅうーーー!!??
奇声を発しながらも、身を屈めてエナジーボールを避けれた俺の運動神経に拍手。

「てめっ、いきなりなにすんのぉ?!!」

「当たったら死んでたぞ!!」と訴えれば、あからさまに『チッ』と舌打ちをされた。
頬が引き攣ったのを感じました。
あーあーそーですか。『寧ろ死ね』と。あーそーですかー。

『っ……てめぇは…………………、
……………………っっー…とりあえず死ね』
「えええぇー、」

再びキモリ君の手からエナジーボールが放たれました。
ぅおおっしかも無数?! 理不尽理不尽理不尽そして死ぬぅううーーー!!
びゅんびゅん容赦無しで放たれるエナジーボールは、本当に俺を殺そうとしているらしい。

「なんでごめんマジでなんでぇぇー!!?」

やけくそで笑みを浮かべながらも泣きそうな、矛盾する俺は必死こいて逃げ回る。
走って走って走って跳んで走ってコケかけて、死ぬのは嫌ですから。
つーか何で!?俺なんかしたかなぁ!!?

「えっと……腹が減ったとか!!?」

ごしゃっ
後ろにあった木にエナボーがぶち当たって粉砕しました。…………えー。

「じゃ、じゃあ喉渇い……うぎゃっ!?」
ズガッ

岩をエナボーが粉砕。破片が飛び散り、こちらにも飛んできた。
長い袖を利用して、破片をガードしながら走り続ける。
怪我はないが、今の破壊力……見ました?
当たったらガチで死ぬって俺。

「え…えぇ!?」

他に…他にキモリ君がキレてる理由って?
えーと、えーと……、

「俺の旅について来たいとか?」

それに中々気付けない俺にイライラしたとか!
なんて、どんだけ自意識過剰なんだろうかと俺は失笑する。
あっはは、そりゃねぇよなぁ。調子こいてごめんなさい!
いやいや勿論冗談さ!冗談、だったのだ……が………、
・・・・・・・・・・。

「…あーれ?」

突然、攻撃の嵐が止まった。
…………んー?
ひゅうー、と夜風が流れて俺は立ち止まる。

「・・・・・・・・・・・・」

攻撃してきた張本人(にん…てゆーか、本ケ?)、キモリを見ると、彼はエナボーを放とうと姿勢のまま固まっている。
碧い、綺麗な眼が動揺したように揺らいでいた。
…………あ、れ、?
えっと………今のキモリの状況をなんて言うんだっけ………えっと………………、
……………………………図星?

「いやいやいやいやいやまっさかぁ」

ナイナイと手を横に振り笑っていたらエナボーが飛んで来ました。避けたけど。
おいこら、あぶねぇだろーが。

「え………いや……あのさぁ…」
『あ゙あ゙?』

「………(ヤクザ?)」

なんでキレんのさ。

「いや…その…………、
エナボーは止めないか?
せっかく俺、言葉分かるのにさ…」

行動でなく言葉で示しましょうよ。
じゃなきゃ、俺が死ぬ。いつか死ぬ。
殺される。キモリに。
キモリはしぶしぶと言った感じで、手を下ろし、俺を見上げた。すぐに視線を逸らされたが。

…ツンデレ?とか考えながら俺はキモリに近付いて、目線を合わせる為しゃがむ。
逃げられそうになったから、咄嗟に尻尾を掴んだ。いや、そんなに暴れられても逃がさんからな。
そしたら、諦めたらしい。抵抗を止めてくれた。
…うん、ツンデレもいいけどやっぱり素直が一番だよなぁ。

一人ニヤニヤ笑ってたら、キモリのはたくを貰いました。
頬に。しかも尻尾で。軽くビンタ。
酷い……父ちゃんにも殴られたことないのにすみません冗談です。
えーと……多分。とりあえず、地味に痛かった。

「えー……と?
俺の旅に、ついて来たいって?」
『………………』

「無言は肯定と受け取るけど、できれば話してほしいなぁ…」

でも、返ってきたのはやはり無言。まあいいさ。
ツンデレだと勝手に解釈してやるさ!

「俺の旅について来るって…………つまり、なんだ?
……俺の……仲間?ん、でも…この場合は…、」

「相棒…パートナーか?」と呟くと、キモリがぴくりと震えた。
おぉ、図星か!

「相棒になりたい、って?
俺の?」

…物好きが居たもんだな。
俺はそれを、へらりと笑い飛ばす。
「やめとけやめとけ」と手を振った。

「俺と一緒に居て、得する事ねーぞー」
『……何で、そうなんだ』

なんで。
なんでだろうなぁ。

「まあ、よく分からんが今までの俺の経験が言ってる。
俺と居たら損しかねーって」

だから止めとけって。俺はまた、笑う。
無意識に笑ってしまう。意識しなくても、勝手に浮かぶへらへらした笑み。
最後に、自嘲気味に笑うと、俺は何かを言われる前に立ち上がった。
黙っているキモリの事は最低限、見ないようにしながら、
俺はキモリが入っていたモンスターボールを指差した。

「そのボールは………誰のか分からんからココに置いておくけど…………、」

「ぶっ壊すかなんかして、はやく野生に帰れよー?」そう言い、俺は鞄を手に、
キモリに背を向けた。


――――ぶっちゃけ、
それが間違いだったんだなぁ、と思う。
  

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