20.求めた結果の先 (6/6)
『ちょ、ちょっとレオ…!?』「しーっ」
人差し指を唇に当てるジェスチャーをしながら、木の幹に寄りかかりながら様子を伺った。少しずつ慎重に進み、気配の手前までやってきた。この生い茂る草木の向こうにそれはいる。
まさかこのまま突っ込む気かとユウが慌てていたが、静かにすると荒い息遣いが風に乗って聞こえてきた。それに俺とユウは顔を見合わせて、アイコンタクトをとる。
───相手は手負い。されどポケモン。
油断は禁物とユウは電気をたくわえ、俺は新しいナイフを構え…、ひとつ頭を振る。
ひゅうるりと風が流れ、雲が空をおおって、また月が覗く。
そして大地に僅かな月の光が射し込んだ瞬間、俺は勢いよくそちらに躍り出た。体制を低くして笑みを鋭くし、砂ぼこりを微かにたたせ、俺とそこから飛び降りたユウは反撃に身構える。
────だがしかし、
反撃は一向にこない。
その上、そこに居た生き物は驚いたようにこちらを見上げているのだ。
『…………人間』
しかも、俺の姿を見たそれが、ぽつりと小さな声で呟いた瞬間、警戒するように纏われていた殺気がふっと消える。
その姿に俺も同じように眼を見張った。そして、ユウと俺の思考は見事にリンクした。
(
(あれ、フツウ逆じゃね?
))と。
人間を恐れたり嫌っているポケモンは少なくないだろう。
中には友好的な子もいるだろうけど………流石に相手が人間だと分かって安心するポケモンはこの世の中にいくらいるだろうか。相手がポケモンなら、同族だし話が通じるから分かるのだが………。
彼の後ろの木には俺が投げたナイフがきっちり刺さってるし…、
………俺、反撃したんだけど。
『………人間、』
「ん!? え、俺?……しかいねーよな…」
『…ん』
「なに? どした?」
『………今日、何月何日、天気』
「
は?」
『…今日、何月何日、…天気』
………単語だけ淡々と並べられて俺はしばらく沈黙した。脳内で抑揚の全くない今の声を反復させてみる。…えーと、つまり?
……今日は何月何日で天気はなにって聞きたいのか。更に脳内カレンダーをぺらぺらと捲る、が出てこなかった。やばい、俺の日付感覚おかしい!
向こうの世界じゃぁほぼ、引きこもりだったからなぁ……と自分のクズさに笑えてきながら、俺はポケギアを取り出す。ダイゴさんに頂いたものだが、まさかこんな所で役に立つとは……。GPSは抜いてあるが、設定されたままの日付が浮かび上がる。
「えーと………──月の──日?
で? 晴れ、だよな………」
『………──月──日 晴れ。
眠い。寝たい。馬鹿……』
「
『は?』」
馬鹿、という元々小さかった言葉は最後、更に小さくなっていき、言い終わるか言い終わらないか…のところで、それは力尽きたようにばったーんと倒れた。いや、なんで日記形式?
短い肢体を投げ出している。そして、鳴ってる低い音…。
腹の虫が鳴ってる……誰の? いわずもがな、こやつである。
オレンジがかかった茶色の固そうな体には、いくつかの傷が確認できたが、どれも致命的ではない…………というか、なんというか、かすり傷や軽い怪我ばっかで、どちらかというと、ぐぅ……と鳴ったその子の腹が原因だろうか………………って、なんで冷静に解析してんだ、俺。
「………なんだこいつ」
『……さぁ』…………呆然と眺めてる間にも、ぐぅ〜とそいつの腹の虫が主張し始めた。なに。なにこれ。
俺らは無言で顔を見合わせて、沈黙した。その沈黙を破る、ぐぅ〜…。
「
『………………
』」
……拍子抜けだ。きっと今の俺は間抜けな笑顔で固まっているんだろう。
…もう帰っていいだろうか、なんて本気で思ったものの、腹の虫がまた俺らを呼び止めてくる。
とりあえず、
とりあえず俺は、この変なオレンジのような茶色のようなぐったりとしたポケモン…………、
ナックラー、を抱き上げて、とりあえず、戻る事にした。
そんなコントみたいな出会いの中で、
『…おれの………馬鹿……』
と、ナックラーがあまりにも小さな声で呟いた事は、
流石の俺でも気づけなかった。
─────夜はまだまだ更けていく。
求めた結果の先(……また、イベントの予感?)20121125
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