20.求めた結果の先 (5/6)
黒の世界に星が踊る。
満月が綺麗だ。
そんな夜は穏やかで、何だかんだでみんな疲れているのか口数は少なく、アイクは自家製のやどりぎの種を成長させて蔓を伸ばし、草結びできちんと結わえるた頑丈なベッドで、ナミと背中合わせで寝ていた。やっぱり、無理させてしまったのか。少し、自分が情けなくなってきて、苦笑を溢すしかなかった。
それでも─────木の太い枝に腰掛けている俺の膝の上には、ユウがいるわけで、あんま、表に出そうとは思えなくて、
「寒くねぇ? ユーくんや」
『んー大丈夫!』嬉しそうに笑うユウの目の前で、下手に感情を見せる事はせずに俺は忘却して、同じように笑いかけた。
『レオも大丈夫?
寒いでしょ?』────いや、同じ、笑みではないかな、これは。
「大丈夫だ」とユウの頭を撫でると、彼は……優しく、困ったように笑う。
『…無理しないでよ?
まだ傷、全然治ってないんだからさ…』「………、…」
『…?
どうかした? レオ』「いや、」
なんというか、ユウはあのプテラ騒動から……少し変わった。
アイクやナミは気付いているだろうか? なんだか、ユウが………感情豊かに、なった…かもしれない。そのことを。
隠してにやけた。
「かわいいなと」
『え………本当?』「本当だけど………あれ、あんま嬉しくない?」
『んー……いや、なんだろ………うーん…。
嬉しいんだけど…』「嬉しい、けど?」
『………レオに言われるとあんま嬉しくないなぁ』「はい!? 差別!?」
『いや、そうじゃなくて………、
…可愛いレオに言われたくないって事にしといて!』「おーぅ無理矢理感拭えねー」
『だって分からないんだからさー…』「(……)なんでだよー」
へらり笑って俺はユウを抱き締めてうりうりーと小さな頭を軽くつつくと、ユウも反応して小さな反撃。くすぐり攻撃をしかけてきた! 負けじとこちらからもくすぐり攻撃。笑ってやり返してやり返されて、静かに風が過ぎて、笑みをさらって、音を消す。
なんてふざけあっていたら、つい木から落ちかけてしまうというアホな事をしてしまった。まぁ、咄嗟にユウを抱き締めたまま枝を掴んだから大事にはいたらなかったけど。空中をぷらーん。間抜けか。
ちょっと冷や汗をかいていたら、あまた心配されてまた、笑った。不思議そうにこちらを見詰めるユウは気づいてないんだろうか。多分、気づいてない。
じゃなきゃ、あんなに優しく笑うはずはない。
優しく、可愛らしく、楽しそうに、
あんな、愛おしいものを見るように、
笑うはず、ない。
『はぁ〜……やっぱり、僕、早く進化したいなぁ』「え?」
さっきより高い枝に、まるで家を抜け出すみたいに静かにふたりで登って、空を眺めていたらふとユウがため息をついた。自分の小さな手を見詰めながら呟かれたその言葉に、俺は心底驚いた。まさか、な。
「、なんでさ?」
『なんでって………そりゃあ進化はポケモンのロマンだからね!』……それって、進化できない種類のポケモンにケンカ売ってね?
……………全国のポケモンさんたちごめんなさい。
『…それにさ!
進化したら強くなれるし!』ユウらしい理由だなと笑ったときに、更に続けられた言葉。
俺は、その言葉に、
『レオを助けれるでしょ!』「──────ぇ、」
笑みを凍らせ、眼を見開いた。
まさか。一瞬思い浮かんだ可能性が色を濃くして俺の頭を占領して、ただ無邪気に笑う小さなピチューを凝視する。
「…まさか、さぁ…」
『え?』口に出して相手の様子を伺うと、ユウは不思議そうにクエスチョンマークを頭上に浮かべるのだ。
その姿を見て、俺は痛みだした額を押さえて思う。ユウは、どういうわけか、変わった。
それがいい事なのか、悪い事なのか知ったこっちゃないが………、変わったのは確かで、変わらないことも確かに存在するのも、確かだ。
その変わらないそれが────…、
『……?
レオ…? どうしたの?』その変化には気付かなかっただろうが、笑う俺の右眼が細く、鋭くなっていることには、気づいたらしい。
そんなあからさまに、俺は嫌悪感を示していただろうか。でも、仕方ないだろう?
キミは矛盾だらけだ。
「もしかして、キミは……、」
それを知らないのか?
と、思わず聞こうとして────、
ざわりと揺れた───紛れもない敵意に俺はハッと身を跳ねさせた。
「
『っ…!?
』」
瞬間。
ぶわりと強い風────風風風風─────砂嵐───!!!
「うわっ!?」
『えぇぇ…?!』真っ青な俺らの悲鳴が重なったのとほぼ同時に、風、否、砂嵐が視界一面を覆った。
ただしその時俺はユウを抱き上げ、空中に身を任せていた。
間一髪の所で迫り来る砂の手からは逃れ、近くの木の枝に飛び移ったと同時に俺は力強く左手を振りかぶった。
と、同時に長い袖からブンッと全てを斬り裂きながら一直線に伸びた、鋭い銀。袖の中に隠し持っていた、ナイフだ。
────普段、ケンカで道具はあまり使わないんだけど…、
これは間違いなく、敵意から発しられた攻撃。
相手はポケモンだろう。ならば、手加減はいらないはず。
傷付ける目的で相手がいるのなら、こちらが情けをかける意味はないと俺は的確にナイフを気配がする方向へと投げた。砂嵐が一旦きれたと同時に放ったナイフだから、相手がなにかすることはできないはずだ。
ガッ、とナイフが突き刺さる音が空気を揺らして響いた。────音的に、木に当たったのだろう。
つまり、外してしまったか。
「────…」
『……レオ、僕が行こうか…?』「………んー………、
いや、いいや」
小声で囁いてきたユウにあっさりと首を横に降った。そして、あっさりと浮かぶいつもの笑み。ユウが目をしばたたせる。まぁまぁ、大丈夫だよ多分。多分ね多分。
だって、相手が───あのプテラを使って襲わせてきた黒コートが、また刺客を使わせたのかもしれない。
確か、バンギラス…だっけ? ダイゴを足止めしたというバンギラスだっていう可能性………いや、に、しては小さすぎるよな。この気配。
一般人に毛が生えた程度の俺はそこまで気配に詳しいわけではないが、この気配────ちょっと…、
「(弱々しい……つーか……)」
よっと。俺はユウを肩に乗せると、幹に捕まると、するすると慎重に降りていった。あの高さぐらいなら飛び降りてもよかったのだが、怪我に響いたらあれかなぁという事でこうした。
地面に足を着けて、あちらを見る。攻撃が放たれた方向だ。俺の横では燃え尽きかけてる焚き火があって、その前でアイクがまだ眠っている。
ナミは、気が付いたようだが体が重いのか、完全に立ち上がれてはない。やはりふたりとも傷や疲労が響いているのか…。
なら、俺がいくしかあるめぇな! …もとからその気だったけど。口実、である。ナイショなナイショ。
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